私の知人コーチからエルゴタイムから、実際の乗艇タイムを推定する計算方法を教えて欲しいという要望がありました。
かれこれ20年以上前から大学ボート部のコーチをしながら、エルゴ記録と実乗艇の関係を考察し、私なりに乗艇タイムに換算する手法があり、ロンドン五輪に向けた日本ボート協会の強化委員会時代（2011年～2012年頃）には、日ボ強化委員会の資料として公開した方式でもあります。
以下、分かりやすいように具体的な事例をベースに、エルゴ2000mタイムから、実際の乗艇2000mレースでの到達可能なタイムを算出する方法を記述します。
１．当該クルーのERGO平均タイムと平均体重を算出する。
1人のシングルスカルであれば、当人のエルゴ2000mタイムと、その時の体重。
舵手付きフォアの場合は、漕手4名のエルゴ2000mタイムの平均と平均体重を求める。
ここではエルゴタイムを6:45.0、体重を73kgとする。
２．75kg換算のエルゴ2000m記録を計算する
上記の付きフォアクルーの75kg換算2000mエルゴタイムは以下の算式で計算できる。
即ち、
6:45.0 x （(75kg+22kg)/(73kg+22kg))^(-2/9） = 6:43.1
３．夏場の舵手付きフォアの2000mタイムはエルゴ2000mタイムと同等
経験的なものですが、夏場（水温27℃程度）の舵手付きフォア2000mレースのタイムは、当該クルーのエルゴ2000m平均タイムと同等であると考る。
また、日本のインカレや全日本の決勝進出クルーの平均体重は概ね75kg前後です。
ということで、当該クルーの75kg換算エルゴタイムは、舵手付きフォア艇の夏場2000mタイムと同じであることを前提条件とします。
即ち、当該クルーの夏場2000m乗艇タイム計算値は、6:43.1となります。
４．艇種毎の艇速係数
舵手付きフォア（4+)を1.0とした場合、各種艇種の速度係数は以下の通りとなります。
1X: 1.10729
2X: 1.02385
4X: 0.94681
4X+: 0.97732
2-: 1.04807
2+: 1.1178
4-: 0.96801
4+: 1.0
8+: 0.90993
５．水温換算：
上記のエルゴ2000mタイムと体重から求めた乗艇2000mタイムは夏場の水温27度でのタイムと仮定します。
水は水温が下がると粘性が上がり粘性抵抗が増加します。
計算した結果、水温が5℃下がるとタイムが約0.7%悪化する結果となりました。
即ち、水温が10度下がると1.4%タイムが悪化します。
６．漕技・出力効率
上記のエルゴタイムから求めた乗艇タイムは、全日本選手権決勝など一流クルーのユニフォーミティーやブレードワークを有するクルーが実現出来るタイムであり、漕技・出力効率は100%のものです。
従い、ユニフォーミティーが良くなかったり、漕技未熟でバランス安定性が悪くてブレードが水面を擦ったりした場合は、当該効率は90%を切ることもあります。
経験的に、フォアやエイトの大艇ではインカレや全日本決勝に進出するクルーは効率100%程度（順風なら100%超）になる様です。
また、漕ぐこと自体に難易度の高いシングルスカルに関しては、世界のトップレベルでも当該効率は95%程度になるようです。
因みに日本のインカレシングルスカル決勝進出クルーの効率は90%程度になっています。
この計算でのモデルとなる舵手付きフォアクルーの夏場水温での達成可能な2000mタイムは：
１）効率100％の場合： 6:43.1
２）効率95％の場合： 6:43.1 x 95%^(-1/3) = 6:50.1
２）効率90％の場合： 6:43.1 x 90%^(-1/3) = 6:57.5
参考ながら、東京五輪の男子シングルスカルFinal-Bに進出したA選手の2000mタイムを、本計算要領で算出すると（但し、効率は95%で算出)
5:59 x （(75+22)/(82+22))^(-2/9)x1.10729 x 95%^(-1/3）= 6:50.7
東京五輪でのA選手のFinal-Bでのタイムは6:50.91でしたので、効率95%だった様です。
７．距離とタイムの関係：
私の考えでは、2000mレースをメインとするボート競技者では、2000mでのタイムを基準とすると、そのスピードは、競漕距離比の1/18乗に比例すると考えます。
これを前提とすると：
500mTTでのタイムが1:36の漕手の2000m換算タイムは：
=1:36 x (2000m/500m)^(19/18) = 6:54.7
1000mTTでのタイムが3:20の漕手の2000m換算タイムは：
=3:20 x (2000m/1000m)^(19/18) = 6:55.7
以上
