1)H28年度の初期目標設定:
H28年度も全日本大学選手権(以下、インカレと称す)の男子エイト種目でA決勝進出できるチーム作りを実現することを目標とした。これは我が部にとっては普遍的な目標である。H28年からの5年間での達成目標は、東商戦対校エイト勝利、そしてインカレエイト優勝を達成するチーム作りをする事を目標としている。インカレエイト優勝を達成するための数値目標は、体力レベルとして、エルゴ2000mの体重75kg換算値で6’28”以内。エイトの2000mタイムとしては、漕技・出力効率110%とし、8月の日中水温の30℃換算で5’40”と設定した。
これを達成するためには、エイトクルーの8名平均でH28年度開始時点の6’38”8から約10秒の改善(出力換算8%改善)、加えて、エイトの漕技・出力効率を110%まで上げる必要がある。これを達成すべく、H27年度の淡青会報に記述したウェイトやエルゴトレーニングの改善、嘗て東大が全日本連覇していた頃に倣い、エイトクルーを複数編成する事による並漕など乗艇トレーニングの改善に取り組んだ。
2)体力向上に関する取り組み
H28年度は、筋力向上、筋持久力向上を狙い、週2回のウェイトトレーニングを行った。冬場は筋肥大目的のHeavy Weight(HW)と、筋持久力向上目的のLight Weight(LW)を行った。ウェイトトレーニングは体幹強化並びに体全体のスタビライゼーション能力向上を狙い、バーベルを使ったフリーウェイト方式のトレーニングを取り入れた。種目は(1)スクワット(SQ)、(2)デッドリフト(DL)/ハイクリーン(HC)/スナッチ(SN)、(3)プリングアップ(PU)、(4)ベンチプレス(BP)、(5)ロープル(RP)。HWは筋肥大の効果を上げる為、木曜日の午後に行い、次回艇庫入りまでの回復の為の休息を置いた。LWは筋持久力を使い果たすので、これも日曜日の午前、オフの前に実施した。
エルゴで10秒改善するには出力で8%改善する必要があるので、筋力は8%以上改善する必要がある。別紙に示す通り、H28年度スタート時から1月までの3か月間で、SQ、DL、PUのウェイト3大種目は全選手平均で、各々、9%、18%、8%向上し、筋力面では目標の8%向上を達成した。筋肥大した結果、体重は約2%増加した。実際、インカレなど主要レースのスタートから100mまでは東大クルーは飛び出しが良く、リードする事が多かった。筋力、取り分け瞬発力での改善効果はあったと考える。
一方、エルゴは、昨年同様、週2回、持久力育成及びフォーム改善目的の60分漕とインターバル系メニューを行った。この結果、2年、3年、4年の全選手平均ではエルゴ生値が約9秒改善したが、上級生主体の上位8名のエイトクルーに関してはエルゴ生値で5秒改善に留まった。一方で筋力増強により体重が2kg増えたため、75kg換算エルゴスコアは6’35”と4秒程度の改善に留まった。筋力向上が8%以上を達成したのに、エルゴ出力が筋力向上分改善出来なかったのは、筋持久力やVO2 max.などの心肺系機能が筋力増強に見合う分、増強出来なかったためであると考える。
LWを週1回織り込んでいるが、乳酸閾値を超える強度で行っているものであり、どちらかと言うと筋肥大トレーニングに近いものとなっていたと考える。現在、日本代表チームが取り入れている仏式トレーニングでは、乳酸閾値を超えない強度、即ち有酸素運動の強度で長時間延々とトレーニングするものを実施して効果を上げている。また、冬場のエルゴスコアの伸びに対し、レースペース主体の乗艇メニューとなる夏場にエルゴ記録が伸び悩む傾向がある。これは夏場にUT漕などの長距離低レート漕の比重を減らした影響と考える。仏式でB1(SR16〜18)、B2(SR18〜20)と呼ばれる低レート長距離漕は、漕技改善効果に加え、1本1本の水中強度をレースペースのそれと同等以上のものに出来るので、筋持久力の向上にも有効である。H29年度は低レート長距離漕をシーズン入り後も継続する方向で見直したい。
3)乗艇パフォーマンス向上の打ち手:
冬場の乗艇トレーニングは、H27年同様、付きフォアによる低レート長距離漕トレーニングを行った。但し、コックス3名に対してスイープ漕手が18名おり、全員が付きフォアに乗れない。そこで常時は付きフォア2杯とし、残りの10名は無しペアやシングルスカルなどの小艇でトレーニングを行った。この際、仙台大学のベンチマーク調査により取り入れた、多くの艇を同時にコーチングする事が可能な荒川での定点往復形式による定点モーターでのコーチングが効果的だった。
一方で、この定点コーチングでは、岸けりからW.Up、本メニューまで「通し」で伴走してコーチング出来ない課題があった。この結果、漕技に課題を抱える漕手の漕技改善に関して必ずしも十分な指導が出来なかった事は否めない。H29年度は定点コーチングと伴走コーチングを併用する形で、より効果的なコーチングを行う方式に見直したい。
H27年度の課題であった東商戦やインカレ前に早期にレース種目ごとのクルーを編成する事による部内並漕トレーニングが出来ない問題を克服するため、H28年度は昭和時代に採用していたエイトクルーを複数編成して並漕する形を復活させた。これは冬場のフォアトレ後、2月から3月のお花見レガッタかでの約二か月間と、東商戦後、5月から新人戦の8月下旬まで約3か月半の間、実施した。この間、ジュニア選手も対校選手に交じって均等エイトに編入し、並漕練習出来たので、部内の底上げに大いに寄与した。このエイト複数編成期間には、お花見レガッタや東日本選手権、エイト選手権などのレースがあり、実際のレースで取組み成果を確認する事が出来た。この結果、H28年度のジュニアは例年に比べて実戦に強い勝負強さを身に付ける事が出来た。一方で、#1エイトに関しては東商戦、軽量級選手権まではまずまずの良いパフォーマンスを出せたが、その後は、1本1本の水中強度が劣化し、インカレの本番までの間、2000mで6分切りを達成する目途を立てる事が出来なかった。夏場に対校エイトのパフォーマンスが劣化する問題は、H27年度も同様に見られた。H27年度の総括では、これを並漕練習出来ぬ故の乗艇強度低下と考え、H28年度は先に述べた通り、インカレの1か月前まで#2エイトを組んで並漕練習を継続した。従って、H28年度の不振は練習相手がいない故のトレーニング強度低下ではない。既に述べた通り、シーズン入り後の乗艇トレーニングメニューは、中間レート以上のオーバーディスタンスや高レートインターバル練習がメインとし、冬場にやっていた低レート長距離漕は補完的なものとした。この結果、冬場に低レート長距離漕で培ったブレードワークなどの漕技や1本1本の水中強度が徐々に劣化し、夏場の不振に至ったと考える。 H29年度ではこの2年間のインカレ時の不振を踏まえ、夏場でも低レート長距離漕を乗艇練習の基本に据えて、レースペースに至る高レートの乗艇トレーニングは、レースの2週間前辺りから本格的に導入する方向で見直したい。因みに、H28年度インカレエイトで優勝した日大や2位の明大は、この仏式トレーニングを採用し、レース直前まで低レート長距離漕主体のトレーニングを行っていた。尚、1週間の中で乗艇練習は6回以上あり、シーズン中はレース前でなくとも、週に1,2回は中間レートや高レートのインターバルトレーニングを行う事は良いと考える。
4)主なレースの結果:
レース結果詳細は、本誌のレース記録のページで掲載されているので、ここでは逐次の結果列挙は割愛する。以下、H28年度の主なレースでの特記事項を記す。
東商戦は、試合に向けた直前1週間の取り組みは、非常に充実したものであり、対校エイトの仕上がりとしてはH28年度のベストの状態にあった。実際、レースの前半では一橋エイトに対し逆カンバス差までリードする事が出来た。後半失速したのは、ブレードワークなど漕技基本やリズムが未熟だった事が原因だろう。尚、対校エイトの艇差は5秒(1.5艇身)と、過去5年間では一橋エイトとの差が最も小さかった。
その4週間後に開催された全日本軽量級選手権では、減量が困難な林・菱田の代わりに小柄・軽量の浅尾・相原を入れたエイトを編成。エルゴスコアではやや見劣りしたもののクルー編成初期から良いリズムで漕ぐ事が出来、久しぶりに順位決定戦に駒を進め、6位入賞を果たした。
京大戦では、前半果敢に攻めてリードしたもののラストの直線で京大に差されて半艇身差で惜しくも負けた。しかしジュニアエイトは瀬田川のアウェーで良く頑張った。付きペアの2マイルレースは長くてきつかったであろうが、京大に勝って関係者を勇気づけてくれた。
その後ジュニアは、対校選手と混じっての均等エイト2杯による並漕練習を行い、上級生との切磋琢磨により力が付いた。この結果、ジュニアは8月の全日本新人選手権において東大ジュニア史上初となる6分切りの5’58”の好タイムを出し、30年ぶりの新人戦エイトメダル獲得を達成した。また併せて、京大エイトに大きく水を空けて京大戦のリベンジを果たした。
新人戦後、直ちにインカレに向けて男子7種目のクルーを編成。インカレに向けて鋭意練習に取組んだ。エイトクルーは期待した艇速が全く出せず、紆余曲折の末、上級生主体のクルーを組んだ。しかし、既に述べた通り、艇速・効率を伸ばす事が出来ず、H27年度同様、6分台の艇速に留まった。H28年度はインカレエイトの準決勝進出、即ちベスト8入りのボーダーラインが上がった。これまでトップクルーをエイトに出していなかった明大がチャンクルーを出し、また、新進気鋭の大阪市立大、日体大などが6分切りを達成する中、6分切りが達成出来ない東大は劣後となり、敗復落ちとなった。エイトは誠に残念な結果になったが、今期、一貫してシングルスカルに取り組んで来た松垣は、U19時代に日本代表選手であった実力者に交じって決勝に進出した。メダルを獲得する事は出来なかったが、予選で出した7’28”は立派なタイムだった。また、長期間に亘るエイト並漕による下位選手の底上げ効果が実り、フォア以下の小艇種目が例年よりレベルアップした。この結果、ジュニア選手のみで組んだ付きフォアが決勝進出した(4位)。付きペアは決勝進出を逃したが、順位決定戦での大接戦を制しラストで一橋を僅差で差し返して1着でゴール。全体5位となった。敗復落ちしたが4X, 4−、2Xなどもレースでベストタイムを出すなど良く頑張った。
インカレの東大各クルーのレースを見るに、東大クルーはスタートダッシュとラストスパートに強みがあった。これは筋力トレーニング、とりわけスナッチなどのPower系トレーニングやサーキットトレーニングの成果と考える。
最後に、11月中旬に実施されたのがH28年度全日本選手権。東大からはチャンクルーとして4+、2+、そしてH29年度東商戦エイトを想定した3年生以下で編成した8+に出漕した。女子は他大学と混成して女子エイトを編成し、出漕した。4+はバウの吉岡以外は4年生で編成。エルゴの平均値は6’30”と、付きフォアとしては東大の歴代最高レベルにあった。2+は4年生のみで編成。4+はエルゴスコアは良いが、フィニッシュでブレードが浮いて押し切りが弱く、トップスピードが十分に出せないクルーだった。この結果、レース前の慶応や早稲田との並べでは、逆風は大きく水を明けて勝つが、順風だと接戦になって水を空ける事が出来ないという状況だった。即ち、逆風は強いが順風では凡庸なクルーだった。フィニッシュの押し切り・加速感を改善しようと、低レートUT漕の継続や、ワークハイトを大きく下げてフィニッシュの浮き上がりを抑えるリギング調整を行ったが、短期間の取組みでは抜本的な改善には繋がらなかった。次に艇に関しては、東大には鉄門所有艇も含めると、国内の主要レース決勝で用いられている殆ど全ての船型を所有している。その中で、このクルーは3種の艇(?Empacher-K45型:木鶏、Filippi-F34型:ZIEG、Empacher-R44型:舞姫)を乗り比べた。抵抗性能面で性能が良くスピードが出るのは、長さが短く濡れ面積の小さい舞姫とZIEG。今回のクルーは平均体重が75kgと重めなので器の大きい舞姫を選んだ。しかし、フィニッシュの押し切りが弱いためバランスが安定せずなかなか乗りこなす事は出来なかった。やはりドライブの加速感や、バランス感覚は冬場から長い時間を掛けて養成する必要がある。さて、レースだが、予選でインカレ準優勝の東海大と当った。弱めだが逆風と言う、東大にとっては有利なコンディション。東海大に先行されたが1600m付近で一時横に並んだ。しかし、そこで相手との艇差をクルーが認識出来ず、差し切れないまま逃げ切られた。東大のタイムは予選全体で4位だった。(予選では大阪市立に水を明けて勝った)予選タイムが良かったので敗復は良い組合せに入り、順当に上がった。しかし、敗復は、トップタイムを狙うも敗復全体で3番目となり、準決勝で日大、東海大の強豪と当ることとなった。準決勝は2位までが決勝進出なので、東海大に勝つ事を狙った。準決勝は東大が得意な逆風が吹き、ラストQで東海大を差し切り、2着で決勝進出を決める事が出来た。これがH28年度4年生のハイライトだったと言えよう。決勝は再び逆風を期待したが、レースの時間帯だけ風が止んで無風となった結果、高速レースとなり、トップスピードの出ない東大は勝負が出来ずに4位で終わった。やはり勝つにはエルゴだけではダメで、実際に乗艇でスピードを出せる技術が必要不可欠。2+はクルー編成当初から良い艇速が出たが、レンジや体力が不足していた。決勝進出を賭けた敗復で目論見通りのレース展開に持ち込んだが最後に京大を差し切る事が出来ず、順位決定回り。順位決定もやや力不足で3着(全体7位)に終わった。下級生で編成したエ8+は、仏式トレーニングの低レートUT主体に取組み、低レートUTでは、巡航速度1’45”/500m @SR20を出した。またSR30での2000mTTでは6’10”(水温18.5℃)を出し良い伸びを示した。しかし、レースまでの短期間でレースレートまで上げた結果、全日本では実力を出し切る事が出来ず公式記録6’17”(水温12℃、27℃換算で6’09”相当)に留まり、敗復落ちとなった。敗復レース後に、同じく敗復落ちした仙台大クルーと一緒にエイトを組み、合同練習を行った。仙台大の漕ぎの良いところを体感する事が出来、良いフィードバックが得られた。仏式低レートUTロング漕は、冬場のトレーニングとして大いに有益だが、東大の様にレース経験が十分でないクルーの場合は、レースレートに向けての準備は、レース直前からでは難しく、もう少し早めに準備する必要があると言う知見が得られた。