Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

①構造材料(シェル材):

おやじが現役選手であった1987年頃までは、国内のレース艇といえば木造艇であった。今では木造艇を作っている造船所は殆ど無くなり、FRP艇が主流となっている。以下、ボートのシェル材の材質の種類と特徴について述べる。

  1. 木材(合板):レッドシシダー(北米杉=赤い木材)を主材として木目を船体の長手方向に置き、水圧に対して変形を防止するため、内側にスプルス(米松=白い木材)を木目を横方向張り合わせた2枚合わせの合板が多い。合計の厚さが2mm程度と薄く、水圧がかかると変形してしまうので、更に内側に補強用のフレーム(肋骨材)を30cm程度の間隔で配置したものが主流であった。木は生きている時に水を通すための細い水管が沢山あるので、比重が小さく比較的軽い重量で艇を建造できる。しかし長年使用すると、ヘタリが出て前述のフレームが浮き出る痩せ馬変形を生じて、水抵抗が増大してしまう。聞くところによれば、スイスのスタンフリー社は今でも木造艇を創っているとのことであるが、国内では最近殆ど見かけなくなってしまった。今や木造艇は骨董品としての価値があるので大事に保管すべきである。尚、英カールダグラス社製の一見木造に見える1X艇(T社のIさんが使用中)を戸田で見かけるが、この艇の構造をよく見るとPVCフォームサンドイッチFRPシェルにお化粧用の木材スライス(マホガニー)を貼り付けたものであり、純粋な木造艇ではなくハイブリッド構造である。
  2. ラミネートFRP:カーボン艇と呼ばれていた1980年代中盤以降のFRP艇がこのラミネートFRPである。ラミネートとは、カーボンクロスやガラスクロスに樹脂を塗布した繊維クロスを積層したものであり、面方向の加重に対しては強いが、厚みが薄いので水圧に代表される面外からの加重に対して弱い。要するにフニャフニャ変形しやすい。比重は木材より密度が高く、重い。艇全体の構造としても木造艇の外板を木材からラミネートFRPに置き換えただけのものが多く、高価なカーボンクロスを使用しても木造艇を越える良品のレース艇を作ることは難しく、次に述べるハニカムFRP構造の普及により、レース艇に採用されることは無くなった。
  3. ハニカムサンドイッチFRP:小学生の図画工作で使用する厚紙がある。厚紙は紙の繊維を厚く積層(ラミネート構造)したものであり、面方向の過重には強いが面外からの過重に弱い。これに対して段ボール箱に使用されている紙は中に波型の紙がサンドイッチされていて厚みがあり、面外からの過重に対して強く、且つ軽い。ハニカムFRPはこのサンドイッチ構造をFRPに採用したものであり、軽くて強い。サンドイッチ構造の間に挟まれる材料のことをDistance Holderと呼び、その名の通り役割は厚みを保持し、且つ、軽いことが要求される。ハニカム材は、蜂の巣を薄くスライス(3〜5㎜厚)した様な非常に軽い材料であり、サンドイッチFRPの最適なDistance Holderである。ハニカムFRPは厚みがあるので、水圧がかかってもシェルが変形(痩せ馬)することが無いので、木造艇で必要であったフレームが不要になった。