Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

新人のスカル乗艇にバックステーは不要だ!

oyajisculler2009-03-03

高校生の新人トレーニングでは、少し古いスカル艇を使っているのでバックステー(トップステー)無しの艇に乗っている。これはおやじが20歳だった頃と同じ状況。バックステーが無いと1X艇の乗り降りやハンドリングも楽にできるので新人の導入艇として良いと思う。一方、最近製造された新規格艇には何れもバックステーがついている。T大の様に古いバックステー無しの艇が殆ど無いクラブでは、新人のスカル導入時期から、バックステー付きの艇を使っている。これは新人には少々難しい様に思う。バックステー付きの艇は乗り降り時やハンドリング時にバックステーが邪魔になり、それ自体が乗艇の難しさという意味でハードルになっているのではなかろうか? 以上、バックステー無しのスカルしか無かった時代に育ったおやじの世代から見ると、新人・女子の導入トレーニング時期にはバックステーを外した方が良いと思う。そこで先日の新人育成に関するMTGでは、今年度のT大新人のスカル導入トレーニングでは乗艇時乗り降りやハンドリングのし易さのメリットを重視し、スカルリガーからバックステーを外して使う事をアドバイスした。
一方、バックステー付きのスカル艇しか見たことのない若手指導者等が、余り見たことのないバックステーを外した状態で漕ぐことに関して、違和感や警戒感を持ち、本件に関して可笑しな抵抗勢力になる可能性がある。アドバイスしたおやじ自身もそういう状況に陥り、面白くもない議論を交わすことは避けたい。そこで、新人導入トレーニング時におけるスカルリガーのバックステー要否に関して、関連の歴史的経緯も含めてここで整理することとしたい。

スカルリガーはバックステー無しの時代が長く続いた:


木造艇の時代はスカルリガーと言えばバックステー無しが基本だった。一方、その時代にもスイープリガーにはバックステーが装着されていた。要は単純な話がスイープリガーはオールを1本しか使わないので人間1人分の力を1本のピン(クラッチ軸)で受けることになり、バックステーが無いとリガーが変形もしくは疲労破壊することが経験的に分かっていた。一方、スカルの場合は1人で2本のオールを使うので、1本のピンに加わる力は、単純な話、スイープの半分となる。これまた経験的にバックステー無しでもリガーに問題となる様な変形や疲労破壊する様なことは無いことが分かっていた。勿論、スカルでもバックステーを付けた方がリガーの強度は増すが、艇が重くなるし、そもそも艇のハンドリング上、邪魔になるので、スカルリガーにはバックステーは付けなかったものと推察される。日本の規格艇も10年ほど前までは、バックステーはついていなかった。

バックステーが装備される様になった経緯:

さて、最近のスカル艇は規格艇も含めて全てバックステーが付いている。バックステーが付けられる様になった経緯はどういうことか?おやじの勝手な推察も含めて時系列的に整理してみたい。:

  1. バックステー無しの場合、ピンがカンチレバー(片持ち梁)である。並の漕力の選手ならこれでも問題ないが、世界選手権のトップレベルを争う様な強大なスカラーが漕ぐと、静止スタートやスパート時などにリガーが変形し、リギングが初期設定状態から変化してしまったり、力が分散してしまったりする懸念がある。
  2. バックステーを装着することで、この問題が軽減(完全に解決は出来ない)されるが、艇重量が重くなる問題が生じる(左右2本で+500g以上)ので木造艇の時代にはスカル艇にバックステーは採用されなかった。
  3. 一方、艇の構造が木製からハニカムカーボンサンドイッチFRPの軽量高強度構造に変わり、艇本体が軽くなってバックステーの重量増加分を吸収できるようになった。
  4. 以上の経緯より、ハニカムカーボンサンドイッチFRPのレース艇にはバックステーを装備することが一般的となった。(この時点でもトレーニング艇にはバックステーは採用せず)
  5. 日本でも世界選手権で使われるエンパッハやフィリップなどのレース艇が普及するにつれ、レース艇はバックステー付きが常識となっていった。
  6. 普段の練習からバックステー付きの外国艇に乗っている選手が国体やインターハイに出場した際に、バックステー無しの国産規格艇を使うとリガーの剛性不足を感じ、国体や高校総体のレースにで用いる規格艇もバックステー付きにすべきだとの要望が出た。
  7. 日本の規格艇構造も軽量高強度のFRP構造に移行し、バージョンアップする際にリガー構造もバックステー付きに見直しされた。
  8. 規格艇がバックステー付きになった時点で、国産艇についてはトレーニング艇も含めて全てのシェル艇にバックステーが標準装備される様になった。

バックステーを外しても、通常負荷のトレーニングには支障なし:

バックステー付が常態化した現在の艇でも、リガー本体の強度は昔のバックステー無し当時のリガーと同等若しくはそれ以上の強度を有しており、バックステーを外しても余程の力で負荷を掛けない限り、リガーが問題となるほど変形するような事はなく、実使用上の問題は発生しない。ボートビルダーであるK野造船のF川社長も、並のスカラーが乗艇するのであれば、バックステーは無用の長物と言っており、自身の艇はバックステーを外している模様。

バックステー付きリガーのメリット・デメリット:

メリットはバックステー付きリガーの経緯に記載の通り、リガーの剛性が増すこと。一方、このメリットはリガーが変形するほど強い力で漕ぐことが出来る者だけが享受できるものであり、漕力が弱い漕手や艇上で力を発揮できない新人漕手ではバックステーが無くても何ら問題なし。
一方、デメリットは以下列記する様々な問題がある。

  1. ボートの乗り降りの際にバックステーが少々邪魔になる。荒川乗艇では実際上バックステーが付いていると岸蹴りや艇から降りる際に少々難がある。
  2. 艇を持ったり下したりする際にバックステーが少々邪魔になる。(特に1X艇)
  3. リギングする際に付けたり外したりするのが面倒。(手間が余計に掛かる)
  4. 艇が重くなる。1シート当り500g強。
  5. 4X+艇等の大型艇で腹切りしてオールを手から離すと、オールのシャフトがバックステーに当り、バックステーが曲がったり、オールを折損したりする。
  6. 新人が1X乗艇すると沈することが良くあるが、バックステー付き艇では再乗艇が非常に難しい。(おやじでさえ、バックステー付の艇では上手く再乗艇する自信はない)

バックステー無しのメリット:

前述のバックステー付きのデメリットが解消され、乗艇や艇の取扱いがより容易になる。尚、相対的にリガー本体の強度が高いウィングリガーでは、世界選手権のレースに於いても、軽量級や女子選手はバックステーを外して使っている例が良く見られる。やはり外しても支障が無ければバックステーは外したいという事だろう。

レクレーション艇ではバックステー無し;

現在、おやじは日ボのレク艇開発検討の中心メンバーとして活動中。このレク艇の要件を纏めるに当り、ボート先進国の海外の事例も調査している。この中の要件として、レク艇(スカル艇)ではバックステー無しとする事が既に決まっている。理由は前述したバックステー付のデメリットを避け、バックステーを外してボートの参入ハードルを下げること。 下の3つの写真は、上から独の某有名レース艇メーカーのレク艇、仏のクラブで使われているレク艇、そしてK社が扱っているレク艇の写真。当然ながらバックステー(トップステー)は無い。
  
また、2/28の試乗で使ったD社のレク艇もバックステーを外して乗艇したが、リガー剛性には全く問題なかった。(おやじ(エルゴ2000m:6分48秒)が、確り漕いでも剛性について何ら問題を感じなかった)
 
以上の状況を総合的に勘案すると、新人・初級者のスカル乗艇トレーニングではバックステーを外して使用した方が、乗艇や艇扱いの難易度・ハードルが下がるので、種々乗艇トレーニングの効率が改善すると思うが如何だろうか。(外したことによるデメリットは基本的に無いと考える。)

以下、余談ながら:

  1. 本稿をブログにアップする前に、念のため、K社、D社、J社にも原稿を見て貰ったが、特段、異論はなかった。
  2. 初級者や女子等がスカル艇の導入トレーニング時に乗る際に、バックステーが前術のデメリットがあることは以前から分かっており、気づいた度に、上手く漕げる様になるまでは外したら?と、T大の後輩に何度かアドバイスした。しかしながら、なかなか実行されてこなかった経緯ある。そういう意味で、当初の記載内容はやや辛辣な表現で書いてみたが、投稿前に感情が表に出るような表現は差し控えるべきと思い直し、淡々と事実を述べる表現に改めた。
  3. 新入生の中には、もしかすると物凄い漕力の持ち主がおり、導入トレーニングの時期から強い水中の力でバックステー無しのリガーがグニャグニャするほど強く漕ぐ者がいるかも知れない。そういう逸材に出会ったら思いきり褒めて上げたい。そしてご褒美にバックステーを付けてあげようと思う。

以上