Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

Rowing:艇・漕手・合成系の速度変化と効率的漕法

oyajisculler2006-06-06

5月29日のログで「エイトを速く進めるために」と題した講演会について書いた。この中で重要なテクニックの一つとしてギャザーの話について少し触れた。これに対して「ギャザーって何だ?」というコメントを幾つか頂いた。
ここでは、おやじの考えるRowing運動における艇・漕手・及びその合成系の速度変化について述べ、それをベースに、おやじの考える漕法の基本について考察したい。尚、今はあまり時間を取れないのでおやじの勝手な考察として受け止めて頂きたい。

Rowingは艇+漕手の合成系の速度を競うスポーツ:

Rowingを論じるときに、艇を速く進める競技という視点で論じられているものが多い。しかしながらボートに於いては、その総重量の約8割は漕手の体重であり、重量移動の観点からすれば、如何に漕手自信の体を速く進めるかのスポーツとも言える。(おやじはボートを漕ぐ時に、艇というより、(ブレード(体感的にはストレッチャー)を支点として)自分自身を速く進めようとイメージしている)

  • エイトの総重量=漕手:75kg*8 + 艇:98kg +COX:58kg + 雑物:2kg + オール:2.7kg*8 = 780kg (漕手の占める割合:77%)

正確に言うと、漕手と艇が一体となった合成系の速度を競うスポーツと言うのが正解だと考える。しかしながら合成系は目には見えない。ただ、Rowingサイクルの中で艇と漕手が一体化する瞬間がある。それは漕手の体重移動が瞬間的に止まるキャッチ前とフィニッシュの瞬間だ。それ以外は漕手は艇に対して動き続けるので、漕手と艇の速度は2分されることになる。これをイメージ図として示したのが下図である。

図の中にも書いたが、おやじが述べたい要点は以下の通り。

加速するには長く・強く水を押し続けること(ドライブ):

ボートの本質である合成系は、ブレードが水を押すドライブ時にのみ加速される。即ち、このドライブ時に如何に長く強く押し続けられるかでボートの加速が決まるということだ。ドライブフェーズについて正確に言うと、ブレードがエントリーされ、水を掴むまでの少しの間は十分な推進力が得られないので、加速し始めるのはエントリーより少し遅れる。この遅れが少ないのが上手いキャッチであり、長く遅れるのが下手なキャッチということだ。また、フィニッシュにおいてはブレードを離水する時に推進力がなくなるので、フィニッシュエンド前に若干減速が始まる。即ち、ブレード離水に要する時間・レンジも出来るだけ短くコンパクトにする必要がある。
また、エイトの様なチームボートではドライブのForceカーブの形を全員で合わせないと効率よくスムースに艇が進まない。また、エイトは艇速が速く、水中を押す速度が速いので、Forceカーブのピークを前半に持ってくるイメージでクルー全員が合わせた方が良いようだ。こうすると、全員が合わせやすく、又、キャッチハーフからブレードに体重を載せた形でスムーズに艇が加速する。これはエイトの漕法として一般的なものである。おやじ自信もそうして漕いでいたし、間違いは無いと思う。

フォワード中、合成系は減速するのみ、減速をミニマイズしよう:

フォワード中は、ボートの合成系は推進力を得られないので減速するのみ。艇がフォワード中盤まで加速し続けるのは、ボートの総重量の約8割を占める漕手が、フォワードで船尾方向に移動するため、作用反作用(運動量保存の法則)により、艇がバウ方向に押し出されることに拠る。しかしながら、見かけ上、艇がフォワード中に加速しても、本質である合成系は水の抵抗により減速し続けるのである。
加えて、運動力学や推進抵抗の理論が分からないと理解し辛いかも知れぬが、艇体と水との推進抵抗は艇の前進速度の2乗に比例して増大するので、漕手がフォワード速度を速くすると艇の速度が速くなり、その結果として抵抗が増大してフォワード中の合成系が更に減速することに繋がるということだ。
良く言う、フォワードラッシュするな!という教えは、フォワードラッシュによる合成系の減速を防止するためにもあるのだ。それではどうすれば良いのかということだが、シートスライドの速度をできるだけユックリさせる方がフォワード中の艇の速度増加を小さく抑えることが出来る。従い、ゆっくり等速にフォワードすることが必要だ。ゆっくりフォワードするには、限られたフォワード時間(レースペース時)の中でシートスライド時間を長く取るということであり、フィニッシュ廻りのハンズアウェーを素早くしてシートがフィニッシュで止まっている時間を短くしたり、キャッチ前を止まらない様にすることが必要となる。

フォワードの終盤はソフトにスライドを減速しよう:

如何にゆっくりとフォワードしようとも、スライドの最後はキャッチに向けてスライドを止める必要がある。そのままの速度で前に出れば、ドスンとストレッチャーに勢い良く乗り、艇に余計な振動を与えるだけでなく、勢いが艇のピッチング運動に転換されて無駄な推進抵抗を増大させることになる。これを防止するためは、シートスライドの終盤1/4程度を使って、ソフトにスライドを減速すると良い。漕手の体は質量があるので、動いている物体を減速(加速度とも言う)するには、F=Maの力が必要である。この力が足の裏でストレッチャーをジワリと押すものである。漕手としては、このジワリとストレッチャーを押す時に自分の体重がキャッチ前に向けてジワリとストレッチャーに乗る様に感じる。即ち、これがGather on the Stretcher(ギャザー)という訳である。
また、ギャザー感を感じながらキャッチ前に臨めば、下記の副次効果(そのものが目的でもある)が得られ、ひいては良いリズム・効率の良い漕ぎとなると考える。

  1. 足の裏でストレッチャーをコントロールしながら押しているのでバランスが安定する。
  2. エントリー直後に力強いドライブを開始する前の良い準備となる。
  3. キャッチ前にブレードの動きがユックリするので、エントリー動作が正確になる。

<追加補足>
上記のフォワード中に漕手が体重移動することにより発生する、①艇体速度上昇による推進抵抗の増大、及び、②キャッチ前の漕手と艇の相対速度の反転動作により発生するピッチング運動の2点の問題点を解決するために、昔開発されたのが、「スライディングリガー」方式の艇である。漕手は固定されシート(シートの背面がをお尻が押すことで推進する)の上に乗り、ストレッチャーと一体になったリガーの方がスライドする構造。体重移動が生じないので、上記の2つの問題が無くなり、上の図に示した合成系速度1本で艇が進む。これにより、艇の速度変化の幅が小さくなり、効率良く進むことが出来る。但し、スライディングリガー方式はFISAルールによりボートの公式レースでは使用することが出来なくなっているので、念のため。

以上