Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

エイトの全般論:

優秀なエイトクルーはユニフォーミティーの取れた一つのユニットとして動いている。8名の漕手が一体となってシンクロして動かないと、バランスを失い、直ぐに艇速が落ちるのがエイトだ。クルーの中に特別有名な選手がいる場合もあるが、野球やサッカーの様なスター選手はいない。一人の漕手のパフォーマンスだけで勝てる競技ではない。しかしながら、一人一人の漕手に重要な役割分担が無いということではない。漕手は、ボートが進む舳先方向ではなく、船尾方向を見ながら後ろ向きに進んでいる。このため、ボートでは漕手から見て一番前、即ち船尾に乗る者が全体を統率している。通常のリガー配置では、コックスから見て左手(左舷)を漕ぐのがストロークサイド、右手(右舷)がバウサイドとなっている。しかし、ストロークサイドに整調適任者がおらず、バウサイドに優秀な漕手がいる場合には、バウサイド選手が整調を漕ぐケースもある。

コックス - 舵取り、兼、指揮者:

川で乗艇するチームでは、コックスは重要な役割を担っている。川には流れやカーブがあるので直線コースで乗艇する場合より、その舵取りは難しい。コックスは川の中で安全な位置を確保し、モーターボートや他艇との衝突を避けなければならない。この難しい操舵に加えて、コックスはエンジン役である8人の漕手に向けて励ましたり、宥めたり等、優秀な指揮者でもある必要がある。

整調 - 頭脳を持ったタフなローイングマシン:

毎日の苦しい練習を半年以上継続してきたクルーでも、厳しいレースでは、#1Qをトップスピードで通過し、艇速を維持したまま#2Qに入れば、心肺系が苦しくなり、乳酸が溜まった太ももに燃えるような痛みを感じる。これがエイトのレースだ。2000mレースのタイムは、約6分間。この6分もの間、地獄の様な苦しさ中で、正確なブレードワークで漕ぎ続けなければならないことを意味している。この苦しさに対し、最もタフに耐え、後ろのクルーが維持し得る最高のペースは何処かを瞬時に判断する頭脳を有し、且つ、そのペースを維持し得る体力を有する漕手が整調である。勿論、後ろの漕手が整調をフォローし得る安定したリズムを刻めることも整調の重要な役割である。最高の整調は頭脳を持ったタフなローイングマシンである。
尚、エイトの整調とCOXに関する要点を以前纏めたものがあるので、こちらも併せて参照されたい。

7番 - 整調の副官:

整調のリズムをバウサイドに伝える役割が7番である。7番はバウサイドの整調役として前を漕ぐ整調の動きにピタリと合わせる必要がある。もし7番が整調の動きに合わせず異なる動きをすれば、そのクルーは誰一人として動きを合わせることは出来ない。7番はエイトの重要なポジションである。整調と7番が整調ペアを構成し、エイトのリーダーと副官となる。

6番 - 最もレンジの長い漕手:

エイトのミドルフォアは、クルーの中で最も力がある大きな漕手が乗るエンジンルームだ。パワーのある4人の中で、6番はその先頭で漕ぐリーダー役である。整調ペアの刻むリズムを後ろのクルーに正確に伝える役割も担っている。6番にはクルーの中で最もレンジの長い漕手が乗ることが多い。6番のレンジ長い程、クルーのレンジが長くなり、艇速が上がるという事だ。

4番 - もう一人のエンジン:

もう一人のエンジン役が4番である。真ん中でピッチングの影響も受けず非常に漕ぎやすい場所なので、一般的には力のある将来有望な若手漕手が乗るケースが多い。一方、4番は整調から遠く離れた3名の漕手が後ろにいるので、彼らに整調のリズムを伝えるバウフォアの整調役も担っていることを忘れてはならない。

3番 - 比較的責任の軽いポジション

4番同様、体力はあるが漕暦が浅い比較的未熟な漕手が置かれるシートが3番である。3番に技術的に未熟な漕手が乗ることで、クルー全体のリズムに悪影響を及ぼさない訳ではない。しかし、バウに乗る程上手くはないという漕手が3番に乗ることになる。多少下手な漕手が漕いでも、その未熟さがボート全体に致命的なダメージを与えることもない。漕ぎやすいポジションである。国を代表するエリート級のクルーに於いては、面子的に致命的な弱点はないが、それでも3番は責任分担が最も軽いポジションと言えよう。

2番 - 整調の控え役

2番には整調の控え役となる優秀な漕手が乗ることが多い。(確かに望ましいことだが、これは選手層の厚いOxford/Cambridgeの対校エイトの話で、日本の大学エイトではそうもいかないだろう)バウと共にボートの舳先寄りに乗り、ピッチング動揺が最も激しく、キャッチで水を捉えるのが難しい場所である。このため、優れたキャッチ技術が要求されるシートである。

バウ - バランスとキャッチの達人

バウは2番と共にボートのバランスを安定させる役割を担っている。上手い漕手がバウペアに乗ると、ボートが安定するということだ。バウは一番舳先寄りであり、キャッチ時にピッチング動揺の影響が大きい。従い、バウは素早く、且つ正確なキャッチ技術が要求される。(レースのスタート直後では誰でも正確なキャッチが出来ようが、レース終盤、特に接戦レースでは、ベストの技術を有する漕手だけが、正確なキャッチを維持し続けられる。)また、レーススタート時にはバウペアで艇の方向を調整したり、前を漕ぐ漕手に後ろから声を掛けて励ましたり、漕ぐこと以外にもその役割分担は多岐にわたる。一般的にバウペアに漕暦の長い漕手を乗せるとクルーの力を引き出しやすい様だ。

大学ボート、対校エイトのシート配置:

上記は優秀な選手が沢山いるクラブでのシート毎の役割分担である。大学ボート部に於いても、将来そうなる様に、入部したての新人時代から、ストロークサイドには将来整調を漕げる様な体力・気力・運動能力に秀でた漕手を発掘し、育ててゆく事が肝要である。同時に7番を漕げる漕手や5番ペアを担うエンジン役も育てる必要がある。おやじの経験から言えば、大学ボート部の場合、4年生で整調フォアを確り組むことが出来れば概ね合格点のクルーとなる。バウペアには漕力的に多少見劣りしても、技術及び精神面で確りした4年生が乗ることが出来れば上出来。更に3番ペアに次年度を担う優秀な3年生が乗っていれば、対校エイトとしての技術伝承になり、大学エイトとしては最高のシート配置となる。おやじが大学3年生の時のT大対校エイトが正にそういうシート配置だった。おやじはこのクルーで4番を漕いだが、この経験が4年生で整調を漕ぐときに大いに役立った。

新人のサイド分けは長期的視野に立ち慎重に:

最近、大学ボート部を見て気になるのがバウサイド整調のクルーをよく見かける事。Sweepオールに関しては初級者から始める大学ボートにおいては、エイトの整調はあくまでストロークサイドであることを基本とすべきである。(高校でボートを経験した選手もSweepについては初心者)
通常、人間は右利きが多いので、最初の内は利き手でアウトサイドを漕ぐバウサイドの方が漕ぎやすく、逆に左手でアウトサイドを漕ぐストロークサイドは上手くブレードをコントロールできず漕ぎに難い。しかしながら、素質のある選手がストロークサイドで1,2年確り取り組めば左手でアウトサイドを上手くコントロールできる様になり(鍛えれば、利き手以外(左手)の方が馬鹿力が出やすい様だ)、持ち前の利き手でインサイドをフェザーをコントロール出来るストロークサイドの方がブレードワークが上手くなる様だ。(でも大学エイトでは、そこまで至らないケースが多い)異論もあるかと思うが、ストロークサイドというのは長い経験則からこうなっているのだと言うのがおやじの自論だ。
従い、コーチは新人の素養を良く見て、将来整調を漕げる様な素質のある選手はストロークサイドを漕がせるべきだと思う。そして上から順にS1, B1, S2, B2,,,という様にサイド分けをしてゆけば、将来、漕力的にバランスの取れたクルーが出来上がる筈だ。(まあ、途中で故障して戦線離脱したり、止めたり、上手くゆかない要素も多々あるが。。。)この辺りを長期的な視野に立ちサイド分けをする訳だが、何も考えずにサイド分けした結果がバウサイド整調が沢山出てくる原因ではなかろうか?大学ボート部のコーチ諸氏は、この辺りを良く考えて欲しい。
尚、本件は初級者からSweep選手を育成する大学ボート部についてのサイド振り分けを述べているものであり、既に漕暦を積んだ選手をピップアップしてクルーを組む様なチームにおいては当てはまらない。ナショナルクルーなど、ピックアップクルーに於いてはサイドに拠らず、整調として最も素養のある選手を整調に据えれば良いと思う。
以上