Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

シングルスカル自艇のストレッチャー換装

 

シングルスカル自艇は2007年建造のSykes艇。
新造時の艇重量は、競漕規則の下限重量=14.0kgジャスト。
元々、搭載されていたストレッチャーは、一般的なボルト3本で固定するシュープレート付きローイングシューズ形式。
シングルスカル艇は、船体の幅・深さ共に小さいので、エイトなどの大艇と異なり、Heel Depthや、シューズの左右間隔を、自分が漕ぎやすい数値に調整することが出来ない場合が多い。

以下、ストレッチャー廻りのリギングに関して、ノーマルストレッチャーとSRDに関して比較しながら、シングルスカル艇のリギング設定に関して考察する。

1.Heel Depth:

Heel Depthに関しては、大艇の場合は、私は16cm~17cm程度としている。しかし、シングルスカル艇の場合は、船底が浅いので最大でも15.5cm程度が限度。これ以上下げると靴の踵が船底に当たってしまう。加えて、シートのレール幅が狭いので、Heel Depthが深いと脹脛がレールに当たって痛くて漕げなくなる。私(足のサイズ:27.5cm)の場合、シングルスカルでのHeel Depthは14.5cm~14cm程度に設定している。(足の小さい漕手はもう少し浅くしても良いと思う)

2.シューズの左右間隔。

シングルスカルは艇幅が狭いので、一般的なボルト3本でシュープレートを固定するストレッチャーでは、左右のシューズの間には指一本しか入らないほど、近づけざるを得ない。これだと左右の足が近すぎて、足でバランスを取るのが難しくなる。
SRDの場合は、シューズ固定治具(所謂、ボード)は、艇の幅が許す範囲で任意に広げる事が出来る。
私の場合は、2010年からSRDに換装し、シューズの左右間隔を広げるメリットを享受できた。(かれこれ9年以上、SRDを使用してきた)
一方で、近年、Wintech等、中国製のシングルスカルなどの小艇は、ボルト3本でシュープレートを固定する形式ではなく、シュープレートのセンターのボルト2本で固定するタイプを採用している。この形式だと、小艇の場合、狭い艇幅ながらもシューズを艇幅ギリギリまで広げて取付ることが出来る。但し、プレートがセンターだけで固定されるので、フォワード中にプレートに曲げ荷重が加わるので、プレートの曲げ強度を高める必要があり、若干、重量が重くなる。最近では従来のアルミプレートに代えて軽いカーボンプレートが採用される様になった。最近は、イタリアのFilippi社もシングルスカル艇はセンターで固定するプレートを採用する様になっている。(ドイツのEmpacher社は従来通りの3点固定式)

3.ストレッチャー重量:

設計体重75kg以上のシングルスカル艇は、競漕規則の下限重量14.0kg以内に艇重量を収めるのは、それなりに軽量化の対策が必要。
特に設計体重80kg以上の中量級以上の大きな艇では14kg以内に収めるのは、なかなか難しい様だ。(設計体重60kg以下の女子艇では、器が小さいので容易に14kg以内に収まる)
私の自艇は設計重量81kg。新造時の艇重量は、ノーマルタイプのストレッチャー搭載で14.0kg。
2010年、SRDに換装(シューズは初期の銀色の重たいタイプ)したことで、一時は艇重量が15kg以上となった。要するにSRDはノーマルより約1kgほど重かった。
SRDシューズは2年程度で踵が綻んでしまうので、概ね2年ピッチでシューズを換装。現在は、軽量型のシューズを取り付けている。
7月の全日本社会人選手権時の事前軽量で、艇重量を計測したところ、14.65kgだった。(艇は良く乾燥させた状態で計測した。)
言い換えると、下限重量14kgの艇に比べると、0.65kg重いということ。
ザックリ言うと、シングルスカル艇の場合、艇重量が1kg重くなると、2000mレースのタイムは約1秒悪化する。
即ち、現状の14.65kgは、下限重量ギリギリの14.0kgの艇に対して約0.6秒ハンデを負っているということ。

4.漕ぎやすさ(バランス安定性)の要素:

Heel Depthに関しては、1.項に記載の通りであり、シングルスカル艇であれば艇の大きさの問題であり、ノーマルでもSRDでも同じ。
シューズの左右間隔に関しては、通常の3点固定のシュープレートに対して、SRDは任意に左右間隔を設定できるメリットがあるが、2.項記載のセンター固定してプレートであれば、SRD同様に左右間隔を広げる事が出来。
次に、艇のバランス安定性に関して:
SRDの売り出し当初のボード角推奨値は50度としていた。(ノーマルストレッチャーは42度程度)ボードを50度まで立てると、ローイングサイクルの中で踵がボードに当たる事は殆ど無くなり、自転車のペダルの様に、ビンディング部分だけでボードに繋がっている様な形となる。この結果、フォワード中はシューズの踵で艇のバランスをを取るという事が、自ずと感覚として理解できるようになる。結果、バランスを取る事が難しいシングルスカル艇に於いても、SRD装着により、踵=脚でバランスを取るテクニックが身に付く様になった。
因みに踵でバランスを取る感覚を一度身に付ける事ができれば、SRDでなくノーマルタイプのストレッチャーでも、”踵でバランス”を取れるようになる。
以上より、バランス不安定な艇を乗りこなす為の練習の一環として、一定期間、SRD装着でバランス安定性練習を行う事は有効と思われる。

5.総合評価:

シングルスカルの漕ぎやすさ、バランス安定性改善という意味で、好ましいのはSRD。若しくは、左右間隔を広めに取れるセンター固定プレート式のストレッチャーが好ましいと考える。
一方で、レースで良いタイムを為には、艇重量を下限重量ギリギリまで軽量化する方が良い。女子の軽量級選手が使用する様なサイズの小さい艇に関しては、SRD装着でも乾舷重量ギリギリまで軽量化できるが、設計体重80kgオーバーの中量級艇以上のサイズの艇に関しては、SRD装着では、14kg以内に収めるのは少々難しくなる。
以上の観点より、SRD装着で下限重量をオーバーする大きなサイズの艇に関しては、ストレッチャーを軽くできるノーマルストレッチャーが良いと考える。但し、漕ぎやすさを追求する上で、シューズの取付幅を大きく取れるセンター固定式シュープレートを採用する工夫も必要と考える。

以上、シングルスカル艇のストレッチャーの最適化に関して要素毎に考察した。

次に、今回実施したマイスカルのストレッチャー換装(SRD→ノーマル)に関して、紹介する。

A. 現在使用中のSRD:


ストレッチャーボードシステムの重量は1,250g。シューズの重量は680g。合計重量は1,930g。
SRD付きの艇重量は14.65kg
ボード傾斜は初期、50度としていたが、種々、試行錯誤した結果、現在はノーマルストレッチャー同様の42度としている。(ボードを立てるとフィニッシュレンジが短くなるデメリットあり、最終的に一般的な42度とした経緯あり)
ボード角を寝かせた結果、キャッチ前でも踵がボードから浮き上がりは然程大きくなく、SRDシステム本来の恩恵は少なくなっている。
結果、SRD付きで、漕ぎやすくなっているものの、下限重量より0.6kg程重くなっているデメリットがある。(2000mレースで0.6秒のデメリット)
 船体から取り外したSRDシステム:1,930g
SRDボードシステム:1,250g....SRDは、このボードシステムが重い。
SRDシューズ(金具付き):680g。。。シューズ自体は軽い。

B.オリジナルストレッチャー:


マイスカルに元々装着されていたストレッチャーは、ボードセットの重量が595g、シューズ(プレート付き)の重量が687g、合計重量が1282g。
という事で、SRDに比べて648g軽い。このストレッチャーに換装すると、艇重量は14.0kgジャストとなる。
一方で、このストレッチャーは3点固定式のプレート故、左右の靴の間に指1本ギリギリ入る程度の間隔しかない。これだと、脚(踵)でバランスを取るのが少々難しくなる問題あり。
オリジナルの3点固定式シュープレート付きシューズ。(687g)
 同上、裏面。シュープレートは樹脂製。アルミ製より軽い模様。
同上、オリジナルボードセット(595g)

そこで、軽さは維持したまま、両足の間隔を広げる為、センター固定式のシュープレート形式に換装することを考えた。

C. センター固定式のシューズシステムへの換装:


Wintechなど、最近の中国製シングルスカル艇では、シュープレートをセンターボルト2本で固定する形式が標準となっている。
そこで、桑野造船に、センター固定式のシュープレートとローイングシューズを発注した。(本日、自宅に届いた)
センターで固定する形式故、シュープレートには曲げ荷重が加わる。対策としてプレートの剛性を向上するため、板厚が増厚されている。結果、プレート付きシューズの重量は765gと、元々付いていた3点固定式のシューズより78g重くなった。
一方で、センター固定のボルトは2本で良いので、ボルトは1本減らすことが出来、ボードセットの重量は11g軽くなって584gとなった。(シューズプレート固定用ボルトは写真に示す様に、電動ドリルを使って、センターにボルト1本追加する加工を行った。同時に左右のボルト2本は不要なので取り外した)
以上、この形式でのストレッチャーセット合計重量は1,349gと、オリジナルより67g重くなったが、SRDよりは581g軽くでき、艇の重量は14.07kgとなる。

 センター固定式シュープレート付きシューズ。(765g)アルミプレートが剛性アップの為、少し重い。
 同上、裏面。シュープレートは軽め穴が幾つも明けてある。
 オリジナルシューズと桑野製シューズの比較。センター固定式の方が左右間隔が広い。
 SRDと桑野製シューズの比較。センター固定式はSRDとほぼ同じ左右間隔。
 桑野製センター固定プレートを取り付けるため、左右のボルトを外し、センターにボルト1本追加の加工。5mmφドリル刃を使用。
 ボードのセンターにM6ボルトを1本追加。
 シュープレートはセンターのボルト・ナット2本で固定している。プレートの穴は15mmピッチなので、Heel Depthの調整10mmピッチとなり、5mm単位の細かい調整は出来ない。(ここは難点。要すれば、ボードのボルト取付を5mmずらして微調整するか?)


上記の通り、次回乗艇時に、今回、準備した上記C.項記載のセンター固定プレート式シューズ形式のストレッチャーを取り付ける予定。
これで、漕ぎやすさがSRDと遜色無ければ、約0.6kg軽量化したメリットが、艇速向上として現れると期待する。

以上