Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

Crew JAPAN コーチセミナー

oyajisculler2010-03-07

昨日午後、JISSの会議室で、日ボ主催のコーチセミナーがあった。14時から19時まで5時間近くの長丁場だった。講師はCrew JAPANの専任コーチ:マックス(ドイツ人)。講師が一方的に喋るだけでなく、受講者(各チームのヘッドコーチクラス)との座談会形式にしたいと言うマックスの希望もあり、沢山の質疑応答があり、有意義なコーチセミナーだったと思う。
参加者の顔ぶれを見ていると、おやじの様に長年指導した実績のあるベテランが6割。未だ大学生、或いは未だ卒業したての若手が3割。残り1割はCrew JAPAN或いは日ボ理事と言った構成。ベテランは、マックスが如何なるローイングスタイル或いは考えを持っているのかや、リギング等、細部情報を確認しようとしたりしていた。一方、若手は大学で講義を受けるが如く、座談会というより、兎に角情報を引き出したい・聞きたいという姿勢が窺えた。今回のコーチセミナーのの目的は、マックスと、国内各チーム指導者との交流・意見交換がメインであったとも思われるので、出来れば各大学チームのベテラン指導者(中年クラス:40歳〜50歳)はもっと積極的に参加すべきだったと思う。
さて、昨日は結構メモを沢山とったので、有益な情報と思われるものを以下箇条書きする。本来は情報の区分を整理しなおすべきだが、時間が掛かりそうなので、今日のところはメモした時系列で箇条書き(単に羅列)する。

  1. ローイングテクニック:テクニックは唯一のものではない。それでもこれは基本・共通のモノがある。コーチは基本を先に指導し、細部(detail)の話を先にすべきではない。
  2. クルーの全体印象を掴む:まず艇(クルーやブレードを含めた全体系)の動きを見て良い点を見つける。悪い点ばかりを言うと選手は固まってしまう。
  3. コミュニケーションが重要:選手の考えを引き出すこと。選手からもフィードバックを得る必要あり。オープンコミュニケーションで選手の頭(Brain)も使う。
  4. コーチはリーダー:選手に近い存在でありながら、リーダーである。強いクルーには必ず良いコーチがリーダーとして付いている。
  5. コーチングは子育てと同じ。最初は全てを親が教えるが、子供の成長に応じて、親の役割は徐々に減り、やがて子供は大人になり、独り立ちシテゆく。しかし、成人後でも何か問題にぶつかった時に、子供は親に頼ることがある。コーチとは親の様な存在。コーチは選手が自立できる様に手助けする存在。
  6. ボート出身以外のコーチが成功した例:ドイツのカールアダムは1960年代に世界のボート界で最も成功したコーチ。五輪の男子エイトで金→銀→金を取った。彼はボクシング出身でボート競技はしたことなし。ボートにウェイトトレーニングを本格的に取り入れ成功した。
  7. 米で成功したクリス・ゼノフスキー:米国ボートは大学エイトが主流にあり、Sweep種目は強いがScull種目は褒められたレベルにはなかった。クリスが米Scullコーチに就任後、米のScullは一気にレベルアップした。彼はScullingテクニック・基本の重要性を確り伝えた。
  8. Scullから始めるのが良い:英国は伝統的にSweep種目がボートの本流になっており、ボートの導入もSweepで行っていた。このため、昔はScull種目が弱かった経緯あり。一般的にSweepから始めた漕手がScullを漕ぐ際にスムーズに移行出来ない事が多いが、Scullから始めた漕手がSweepに移行するのは特に問題はなくスムーズに移行できるもの。英国は今ではシステムを変えScullから始める様になっており、Scullのレベルが向上している。ボートはScullから始めるべき。(因みに、おやじ本人も大学2年時に6カ月程、1X競技に集中した経験あり)
  9. Keep body Flexible:クリス・ゼノフスキーの言葉:”白人バスケットプレーヤーの様な硬い動きではダメ、黒人プレーヤーの様に体をフレキシブルに使えKeep body flexible!”
  10. ボートの基本テクニック4カ条:(1)Long Stroke(レンジ)、(2)正確でクリーンなブレードワーク、(3)パワフルなドライブ、(4)リズム
  11. ビデオは有効:但し、自分のビデオばかり見るのではなく、理想とするクルーの漕ぎを見ること。
  12. リアルタイムの映像フィードバック:ビデオF/Bはその場でやってこそ有効。揚艇後リラックスしたところで見てもF/Bは少ない。というか忘れてしまう。リアルタイムF/Bが最も有効であり、Crew JAPANでもゴーグルに映像を映せるゴーグルビデオシステムの導入を計画中。
  13. 体幹の強化が重要:ローイングテクニックの問題(下手さ)は体幹の弱さに起因するものが殆ど。ボートでは脚や腕の強さばかりが注目されやすいが、脚と腕の間にある体幹の強化が重要。体幹が弱い漕手は良いテクニックが実現出来ない。(世界の超一流漕手の胴を見れば分かるが、皆ドラム缶の様な体幹をしている:Redgrave, Xeno Muller、Tufte、武田選手など。)
  14. ウェイトトレーニング:年間を通して行うべき。冬場だけやって、レースシーズンはやらないというのでは、十分な筋力強化が出来ない。筋力強化には時間が掛かるもの。
  15. フリーウェイトのトレーニングが良い:バーベルなどのフリーウェイトを使ったトレーニングは、バランスやスタビリティーレーニングにもなる。(マシントレーニングより良い)但し、フォームが悪いと怪我の原因になるので、導入期の正しいフォーム造りが必要。初期は軽い負荷で正しいフォーム造りをミッチリ行い、フォームが出来るようになってから負荷を掛けるようにする必要がある。(フォームの基本を守れば、子供にもウェイトは有効)
  16. ウェイトトレーニング効果がローイングに発揮出来るまでには時間が掛かる。ウェイトトレーニングで筋力が向上しても、即、乗艇でのパワーアップには繋がらない。ローイングパワーへ繋げるには時間を要する。
  17. ロングストローク:強いクルーに共通する基本はストロークが長いということ。国際レベルクルーのレンジは長く、SweepではLW男子で水中(有効)レンジが86度。フィニッシュロスが4度、キャッチロスが1.5〜2度で、見かけの振り角は91〜92度となる。下表はマックスの述べた数値を整理した表。見掛け振り角はおやじの試算値。(おやじの意見:胴長短足の日本人は、海外のクルーと伍して艇速を上げるには、体型に合ったインボードやスパンを設定する必要があると思う。)(おやじの補足:キャッチロス角及びフィニッシュロス角とは、図に示すとおり、エントリーで水中にブレード一枚決まるまでの戻り角と、フィニッシュでブレードを離水する際に要する振り角のロスの事。これは小さい程良いがゼロにはならないという事。因みに上記のロス角度はトップクルーの値であり、並の大学生クルーだとこの倍くらいロスしていると思われる)
  18. 乗艇中の諸データを計測・F/Bする:ドイツでの艇上データ計測の数値サンプルを見せてくれた。データのパラメーター数は20点を超えていた様に思う。ベテランこーちなら、計測などしなくても分かる差異であっても、コーチが気づくイメージを単に感覚論で述べただけでは選手は納得しない事が多い。そこで、乗艇中の諸データを計測し、イメージを数値化して選手にF/Bすることが必要。
  19. フォースカーブは重要:チームボートではレンジだけでなく、フォースカーブを合わせる事が重要。2006年に世界選手権エイトで優勝したドイツクルーは、2006年・2007年と、ストレッチャーボードに掛かる荷重のカーブをリアルタイムで各シートに表示しながらカーブを合わせる様に試みた。その結果、この試みを行う前の2006年をピークにして、ドイツクルーの成績は下がる一方、試みは失敗し、メタメタになった。フォースカーブは各選手の筆跡の様なもので脳に深く焼きつけられたパターンであり、短期間に矯正できるものではない。今ではドイツコーチの間では、フォースカーブは修正出来ないものと理解されている。(おやじの意見:新人導入時期にフォースカーブが焼き付いてしまうので、新人期の指導が重要ということだと思う。新人期から下図の様な美しくパワフルなフォースカーブを理想として教育すべきだと思う)
  20. グリップは重要:ボートは手でオールを操作するスポーツ。フェザーワークやスカルでのクロスオーバーは難しいテクニックを要する。一度間違った要領で覚えてしまうと、後々、修正するのは困難を極める。ゴルフではグリップについてかなり時間を掛けて持ち方を教え込むが、ボートは何故か重要性が理解されていない。コーチは新人教育の中で確り時間を掛けて正しいグリップを教えるべきだ。
  21. スカルはフィンガーグリップ:フィンガーグリップとすること。手に平で握りこむと余計な処に力が入り、リラックス出来ない。クリーンなブレードワークやタップダウンが出来ない原因となる。
  22. スカルのクロスオーバー:将来チームボートを漕ぐ際に問題を生じない様に、クロスオーバー時は下の手(右手)を手前にして漕ぐように教えるべき。写真で図示すると以下の通り。
  23. フィニッシュのタップダウン:クリーンなブレードワークにはフィニッシュでクリーンにタップダウン(ハンドルのドロップダウン)すること。この為に、スカルではフィニッシュ時に両ひじを横に開き手元をタップダウンする姿勢を保つこと。(おやじ:分かっちゃいるけど、Sweep漕手には、この両ひじを横に開く姿勢が難しいんだよ。ホラ:Sweep出身のTufte選手を見てご覧。脇を閉めてSweepの姿勢で漕いでいる。でも速い!?)
  24. フェザーリング(フェザーワーク)のテクニックは重要:クリーンで効率の良いブレードワークにフェザーリングテクニックは重要。国際レベルのクルーでもフェザーを付けた際に発生する問題も、ノーフェザー漕ぎだと問題が消えることが多い。要するにフェザーテクニックの成否がフォワード中のリラックス感などに影響する。フェザーもボート導入の初期にあるべきイメージを確り刷り込む必要がある。
  25. スカリングテクニックのビデオ映像:幾つかのビデオを紹介してくれたが、その中におやじが過去見たことのあるアテネ五輪M2Xで優勝した仏2Xクルーの映像があった。このクルーの正確無比・クリーンなブレードワークや、タップダウン要領について参考例として紹介された。体格はあまり大きい漕手ではない様に見えるが、そのテクニックは驚嘆に値する。
  26. クルー内でのリギングによる体格補正:身長や手足の長さでレンジが合わない時にはスパンでレンジを補正することがある。しかし、可能なら体格の揃ったクルー構成にするのが基本。
  27. スカルの左右ワークハイト差:L/W1X世界チャンピオンのスイススカラーの映像を見た聴講者から、この漕手は左右ワークハイトを大きに設定しているのでは?との質問に対し、「彼女はクロスオーバーを左右ワークハイト差で吸収しており、左右差は大きめの1.5cm。ドイツでは0.8〜1cm程度が一般的。」との解説あり。もっと左右差を付けないとクロスオーバー時に艇が傾いてしまうのでは?との質問に対し、「艇を完全に水平に保って漕いでいるスカラーは殆どいない。左右どちらかに傾けて漕いでいるケースが多い。これで問題になるのが2X以上のクルーボート。最初は傾き方に対する感覚が漕手に拠って感じ方が食い違い問題となる。しかしやがて慣れるもの」(おやじの考え:艇を傾ける位なら、左右ワークハイト差を大きく設定した方が、面倒な事が少なくなり、クロスオーバーもシンプルに出来ると思う)
  28. ローイングはテクニックは重要。乗艇では正しく漕ぐことに集中する:クリーンで正確なローイングテクニックを実現するのは時間が掛かり、難しい。これがローイングの難しさ。繰り返し長時間の乗艇トレーニングで培うものだが、練習で疲れすぎてブレードを正しくコントロールできない様な状態では、乗艇を中止してエルゴなどの陸上トレーニングに切り替えるべき。酷い漕ぎで長時間漕ぎ続けると、間違ったローイングイメージが脳に焼き付いてしまい、正しい漕ぎが出来なくなる
  29. フィジカルトレーニングは、乗艇よりエルゴの方が効果的:エルゴにはモニターが付いているので、フィジカル面では、同じ時間漕ぐならエルゴの方が乗艇より効果的。
  30. 並漕トレーニングは強度維持に有効:乗艇ではエルゴと異なり艇速モニターがないので、独漕だと負荷をキープするのが難しい。(SpeedCoachで艇速モニター出来るが。。。)そこで並漕すれば強度を維持できる。何故なら人間は負けるのが嫌いだから。但し、並漕時はレート指定が必須。レート指定により1本毎のパワー改善につなげる事が出来る。
  31. ローイングとはどんな競技か?:マックスの考えるローイング競技の特徴を質問したところ;ボートは単調な動きを長時間継続しなければならない。そしてそれが体力的に非常に厳しい。しかもスピードを上げれば上げるほど水の抵抗が大きくなる。また、ローイングテクニックは見た目よりずっと難しさを伴うものであり、その向上には非常に長い年月を要する。そして2000mというレース距離、時間にして6分〜7分という時間は人間にとって最も苦しい距離。例えばもっと長い距離のヘッドレースや、もっと短い1000mレースなら、それほど練習せずとも、レースで好成績が出せるかも知れないが、2000mは確り練習しないと良い成績が出せない。ということで、ローイングは体力面、精神面、テクニカルな面など、あらゆる要素でタフネスさが要求されるスポーツである。」
  32. 日本のローイングに対する正直な感想は?:上記のイメージを持ったマックスからみて、日本のローイングに対し、ここは変だぞというのがあれば教えて欲しいとの質問に対し;「艇や艇庫などの施設面では世界で見てもトップクラスであり、申し分がない。この世界的な経済危機の中でも施設が維持されており日本はボートにとって良い環境だ。一方、コーチングについては、高校のボートではコーチ(顧問の先生)が必ずついていて問題は無いと思う。でも高校卒業後の大学や企業ボートではコーチが少なく問題だと思う。(極論するとコーチがいない)今年のCrew JAPANでも6クルーに対し、コーチが2人しかいない。少なくとも3人は必要。ドイツならコーチを募集すればボランティアのコーチがいくらでも手を挙げてくる。また、大学ボートについては、各大学チームのプログラムが最優先され、優秀な選手が各チーム内に温存されて、ナショナルクルーを組むための交流の場になかなか参加出来にくい様になっている。また、日本の中での活動がベクトルが1本化されておらず、皆がバラバラに取り組んでいる様に見える」(おやじから見ても、その通りと思うも、最近はかなり改善されつつある。しかしながら、プロコーチが少ない、プロコーチが食ってゆける環境になっていない事が日本ボートの弱みだと思う)
  33. ブレーキ付き乗艇練習:乗艇練習のサンプル映像として、北京五輪M2-で優勝した豪州2−クルーの練習映像が紹介された。下の映像:船底にゴム紐を付けてブレーキしながら延々と漕ぐ映像。ブレーキの目的を質問したところ、ブレーキを付けて艇速を下げることにより、ブレードワークが容易になり、テクニックの練習がしやすくなるとのこと。フォアでブレーキ付き(バンジーと言っていた)をすることはあるが、エイトではやらないとのこと。その代りエイトの場合はフォア漕ぎの分漕で代用するとのこと。
  34. ボートの観察の仕方:(1)まず全体印象を掴む。(2)舳先とスターン等、艇の動きをみる、(3)ブレードの動きをみる、(4)漕手の動きをみる。という手順で見るとのこと。
  35. ストレッチャーボードの押し方:脚のパワーがローイングで最もパワーがあることを前提として、ストローク中に足でボートを押し続ける事が必要。踵で押す、親指の付け根で押すなどのイメージは漕手によって感じ方が異なるがそれは個性・個人差であり、細かいことは気にしていない。それより、ボードをコンスタントに押し続けることが重要。特に膝を最後に確り伸ばす最後の一押しが出来ているか否かで艇速に大きな差が出る。
  36. ローイングシューズの開き角:造船所は一定の開き角でシューズを取り付けているが、漕手によって、最も効率よく力が出る角度が異なる。だから最適な角度を選手ごとにチェックしてベストの角度で設定すべき。また、最近はローイング中に角度が自由に動かせる靴が出来た。New Waveの靴
  37. Shimanoストレッチャーシステム:自分の指導するクルーで使っていなのでコメントできないが、第一印象として(1)値段が高い、(2)重量が重くなる、の2点が気になるとのこと。

メモに記録されていたことは以上の通り。結構密度の高いコーチセミナーだった。マックスは、今後もコーチセミナーをすべきだと言っていた。是非継続すべきだと思う。
以上