Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

丸底Touring Boat試乗レポート

oyajisculler2008-09-07

日ボのT理事長との雑談がキッカケになり、ボート初級者が安全にボートを漕いだり、ボートの玄人が川や湖でツーリング(遠漕)を楽しむためのボート、即ち、レクレーション艇を開発しようということになった。関係者数名によるP/J立ち上げの準備会議を行った。レクレーション艇開発に当たっては、全く新しい船型をゼロから興すより、既に存在する優秀な船型を母船型とし、そこから改良してゆく方が、より短期間で完成度の高いものができると思われる。ここでは昨日実施した丸底ツーリング艇の試乗結果のレポートを纏めるが、その前にレクレーション艇開発の母船型について簡単に紹介したい。

レクレーション艇の母船型候補;

レクレーション艇の母船型候補として以下の2船型が挙げられる。

  1. ナックル艇;つい10数年前までは高校総体や国体の正式種目であったこともあり、国内のあらゆる水域にナックルフォアがある。堅牢性、安定性に優れているので、ボート初級者の導入艇として今でも使われている。言わば日本発のレクレーション艇。特徴は、以下の点:(1)和船の構造を取り入れ、船艇にナックルライン(造船用語ではチャインという)があり、安定性を確保しつつ、推進抵抗の低減を狙った高速艇の船型を採用している。(2)竜骨が船艇に突き出ている。竜骨は縦曲げ強度の向上の他、直進安定性と横揺れ防止のダンパー効果の両面に寄与している。(3)Bowの後ろに代漕者を載せるスペースや、COX席の後ろにコーチ席を設ける等、クルー5名+2名の最大7名が乗ることができる大きな少し大き目の船型になっている。艇が大きいことも原因ではあるが、昔の木造時に規格艇基準として設定された艇重量(新造時135kg。使用時に木材に水が浸み込むと約145kg)が原因して、ナックルは重いというイメージが定着している。現在は規格は外され、FRPの軽量構造が採用されているので、85kgという超軽量艇もある。最新型ナックル艇の試乗結果は8月13日のログに記載。
  2. 丸底ツーリング艇;竜骨が船底から突き出しているので、一見、日本のナックル艇に似ているが、ナックルラインはなく、丸い船底となっている。元々は木造の船型(細い板を鎧張り状に張り合わせた船型)から来たものだが、最近新造される艇はFRP構造になっている。欧州では主としてスカルリガーを装備してスカルオールで漕いでいる模様。前後にはカンバスを張らずに開口されており、ここに食べ物や飲み物を搭載して遠出し、漕ぎ進んだ先で上陸してピクニックを楽しんだりしている模様。勿論、初級者導入時のトレーニングボートとしても活用されている。欧州のローイングクラブでは20年以上前に建造された木造艇が大切に維持管理されて使用されている。ただし、木造艇は建造に手間がかかり値段が高いので、最近建造されるの艇は殆どがFRP構造の模様。日本でも桑野造船、デルタ造船、及びJ2ローイングセンターが、中国の造船所でOEM建造した艇を販売している。最大7人が乗れる大きさである日本のナックルフォアに比べると、このタイプのボートは一回り小さい。その為、艇の重量が軽めになっている。

丸底ツーリング艇試乗結果;

さて、前置きが長くなったが、昨日の試乗結果を以下の通りレポートする。
今回試乗した艇は、デルタ造船が販売している丸底ツーリング艇。名前は「ラウンドボート80」とのこと。名前の通り重量は80kg。
漕いだ感触は、第一印象としてはバランス安定性が良いということ。モーターボートが立てた曳き波やウネリがあっても殆ど漕ぎにくさを感じずに漕ぐ事が出来た。波が穏やかな港内やモーター等の他のウォータースポーツと共存せざるを得ない水域などでは使いやすいと思う。ただ、乾舷が少々浅いのでラフコンに対しては必ずしも十分な耐航性が確保されている訳ではない。
また、ナックル艇に比べると艇が小ぶりな分、加速性や小回りが良く効く。詳細は以下の通り。

艇の外観的特徴;

船底の形状は、前述の如く、ナックル艇に採用されているチャインはなく、幅広く扁平な楕円形の丸底。センターに竜骨が突き出している。

ツーリング時に荷物を積む事を狙っているためか、船首・船尾はカンバス構造はなく、開口となっている。一方、ラフコン時の浸水でも艇が沈まない様にシートデッキ以下は2重底の様に水密構造となっている。

舵の形状、構造はナックル艇と基本的に同じ。少し違うのは、(1)ナックル艇で採用されているラダーロープに滑車を用いて、操舵に要する力を軽くしようとしている機構は採用されていない。従い、操舵には若干力が必要。(2)ラダー取付部はナックル艇と同じ構造となっており、金属製の支柱が採用されている。計量化のためか、この支柱はナックル艇に比べると細い。レース時など、ウォーターマンがラダーヨークを持つが、現状の支柱では強度が足りないかも知れない。
艇内の構造やストレッチャー、シートなどの艤装品はナックル艇と全く同じ。少々問題があったのはストレッチャーボードの取り付け高さ。ボードの位置が高すぎてストレッチャーのHeel Depthが十分に深くとれない。一番深くして13cm程度。まあ、ボードを改良すれば直ぐに治るので大きな問題ではないが。。。

ラフコン時耐航性のポイントとなる乾舷高さについては、下の写真で分かる様にナックル艇に比べると少々ガンネルトップの乾舷高さが低い。穏やかな水域では問題ないが、ラフコンになりやすい水域では、もう少し乾舷高さを高くする必要がありそう。

コックスシートは大きな背もたれがついており、座り心地が良い。このシートは運搬時や艇庫格納時に邪魔にならぬ様、前に倒しこむ事が出来るようになっている。下の写真は椅子を前に倒した状態。

外観上の特徴は以上の通り。

運搬や取り回しについて;

普及型のレクレーション艇として重要な課題となる運搬や取り回しを確認するために陸送や川への出し入れを確認する為にクルー5名のみで荒川に出艇した。
今回はLBRCの50歳前後の中年男性3名(含むCOX)とT大1年の新人ボート部員2名。当日クルーを掻き集めた結果、この編成となったが、図らずもレクレーション艇を実際に利用するモデルケースの様になった。
先ず確認したのが艇の重量。漕手4名で運搬するので肩に担いで陸送できる重さである必要がある。艇庫から出して実際に担いだところ80kgなので何とか担げた。ただし、荒川の土手超えを考えると、できればもう少し軽い方が良い。下の写真は陸送中の一コマ。

ナックル艇や本艇など、船底に竜骨が突き出ている艇の良いところは、下が草地や砂地、あるいは石ころの無い地面ならそのまま置くことが出来ること。遠漕時の重要なポイントの一つだ。今回も川面に浮かべる前に一度草地に下ろした。

この類にしては軽量艇といいながら、80kgと重いということ、また、艇の幅が広いので、シェル艇のように頭上に差し上げて水面に下ろす事は適当でない。やはりナックル艇同様、船尾から水に下ろして進水させるのが正しい方法の様だ。さて、ここで少し気になったのが舳先にバウロープが付いていなかったこと。ナックル艇では浸水時にバウロープを一人が持っていれば気にせずスッと進水させることができるが、今回は浸水時に舳先を離さぬ様に慎重に浸水させる必要があり、ほんの少し気疲れした。

実際に漕いだ感触;

水に浮かべて感じたのはナックル艇に比べると一回り小ぶりは事もあり、乾舷があまり大きくなく、水面からシートまでやガンネルトップの高さは通常のシェル艇と略同じ。ラフコン時の波を勘案するともう少し乾舷が高い方が良さそう。

上の写真を撮るためにコックス席の上に立ち上がったが、若干不安定さを感じた。やはりナックル艇に比べると絶対的な安定性の安心感というものは無い。止まっている時の安定性はナックルとシェル艇の中間と言ったところ。
さて、漕ぎだすと新人2名が乗っているということもあり、最初は若干フラフラしたが、それほどブレードを擦らずに漕げた。漕いでいる時の安定性は結構良い。少し漕いでから両舷でフィニッシュワークの技練を実施。安定性が良いので技練には持ってこいの艇だ。
さて、2番を漕いだ新人君、少し漕いでいると素人が良くやるハラキリをした。安定性が良い筈なのに艇が結構傾いた。整調のオールをよく見るとオールがクラッチから外れていた。どうやらクラッチのピンを確りと締めていなかった模様。アブナイ、アブナイ。ナックル艇は両舷でオールを外しても何とか沈しない安定性があるが、この丸底ツーリングボートはそこまでの安定性は無い模様。
漕ぎ進むと、荒川の厄介者ウェイクボードが走ってきた。いつもなら嫌な奴が来たと思うところだが、今日はレクレーション艇としての耐航性も確認する必要があるので、彼らの曳き波は大歓迎。早速モーターの曳き波に向かって漕ぎ進み、マトモに波に突っ込んでみた。モーターの曳き波なので波の本数は3本程度で一瞬だったが波を横切る時にスプラッシュが上がり水しぶきで少々濡れた。艇内を確認すると僅かではあるが艇内に浸水があった。一つは整調のリガーに波頭が当たり水しぶきが浸水したもの。もう一つが舳先が波の中に突っ込んで舳先の開口部から水が入ったもの。やはりラフコン時の耐航性を勘案すると船首と船尾にはカンバス構造が必要。また、リガーについてはナックル艇試乗時のレポートにも記載したが、ダブルパイプの下側のパイプに波頭が当たって水しぶきが浸水するので、AeRoWingリガーの様なガルウィング計上のリガーにする等の工夫が欲しいところ。
その後暫く漕ぎ進み、笹目橋を通過し昔の黒船台付近まで漕ぎ上った。おやじ本人は、最初はCOXをしていたが、笹目橋水門付近で整調とCOXを交代し、途中から整調を漕いだ。印象としてはシェル艇より圧倒的にバランス安定性が良く漕ぎやすいと言うこと。ライトパドルやパドルも漕いだが、加速性も良く、結構スピード感もあって楽しく漕げた。素人ばかりでなく、ベテラン漕手も偶にはこういう安定性の良い艇に乗り、ブレードワークのテクニカルドリルを徹底的にやっても良いと思う。レクレーション艇というより、新人トレーニングや、選手のテクニカルドリル用の艇として活用すると良いと思った。
折り返して笹目橋を通過すると、ウェイクボードのモーターが3艇程おり、水面を引っ掻き回していた。エイトなどシェル艇の場合はこういう状況だとまともに漕げないが、この丸底艇は安定性が良いので殆ど漕ぎにくさを感じず普通に漕ぐ事が出来た。また、モーターの曳き波も斜めに突っ切れば横揺れやスプラッシュいよる浸水もなく、スイスイと漕げた。艇の幅が広いので波があっても波の上にプカプカと浮いて波を乗り切ってしまう様だ。モーターボートなどの往来がある水域でも本艇なら問題なく乗艇練習できそうだ。

以上