Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

エイト決勝:優勝クルーのペース配分

oyajisculler2006-05-02

東京ぼーっと塾のYNさんの依頼で、5月29日に「エイトを速く進めるために」と題して講習会の講師を行うことになった。実のある内容にしたいと考えており、それなりの準備をしようと思う。
ということで、この講習会に向けてエイトを速く進めるための要素に関して、項目毎に調査・考察し、内容をブログに纏めようと思う。今日はエイト決勝レースに於ける優勝クルーのペース配分について纏めたい。下のグラフは今回纏めたエイト優勝クルーのペース配分を示す。各々調査した内容について考察する。尚、グラフ中の%数値は、2000mタイムの500m当たりの平均速度を100%としたときに、平均速度からのQ毎の変化を示す。(速度表示)

インカレ優勝クルーのペース配分:

過去3年間(H15年〜H17年)のインカレ優勝クルーの決勝レースでのQ毎ペース配分を調査し、平均値を取った。過去3年間の記録では、1Qで飛び出したクルーがそのまま逃げ切っている。

  1. 1Q:H15年慶応大:3.8%, H17年中央大:3.7%、3年平均で+3.5%。やはり最初に飛び出すことが勝つための必要条件ということだ。
  2. 2Q:3年平均で-0.2%。概ね平均ペースに近いところとなっている。
  3. 3Q:3年平均で-2.7%。3Qのペースダウンが大きい模様。
  4. 4Q:3年平均で-0.7%。3Qに対して2%ペースアップしているが、平均ペースまで回復するには至っていない。最も今回調査した対象クルーは何れも2位以下に水を空けて勝っており、4Qで飛ばす必要が無かったのかも知れない。

全日本優勝クルーのペース配分:

過去3年間のインカレ優勝クルーの決勝レースでのQ毎ペース配分を調査し、平均値を取った。過去3年間の記録では、全日本でも最初に飛び出した明治安田生命クルーがそのまま逃げ切っている。

  1. 1Q:H16年:3.7%, H17年:2.0%、3年平均で+2.7%。やはり最初に飛び出すことが勝つための必要条件ということだ。
  2. 2Q:3年平均で-0.4%。平均ペースより少し遅いペースになっている。
  3. 3Q:3年平均で-2.7%。3Qのペースダウンが大きい模様。
  4. 4Q:3年平均で+0.4%。3Qに対して3%ペースアップしている。過去3年間の全日本決勝は何れも半艇身以内の差。熾烈なラストスパート合戦となった結果、4Qのペースはかなりレベルが高いといえよう。

思うに3Q:-2.7%というのは結構なペースダウンと言えよう。全日本で優勝できなかった2位以下のクルーは3Qでもう少し頑張れば、明治安田に追いついたのではないかという気がする。今年の全日本では、3Qについても注目してみたい。

世界トップクルーのペース配分:

今年1月の日ボコーチセミナーで専任コーチのGP(ジャンニ)が解説した資料によると、1Q:+3.0%, 2Q:-1.0%, 3Q:-1.9%, 4Q:+0.3%。しかしながら、合計すると0.3%になってゼロに戻らない。四捨五入の問題でもなさそうだし、やはりイタリア人、結構aboutだ。ということで技術屋のおやじとしてはゼロに戻らないと気が済まないので、少し手を加えて、1Q:+3.0%, 2Q:-1.0%, 3Q:-2.1%, 4Q:+0.1%とした。これなら合計ゼロに戻る。さて、

  1. 1Q:3.0%。やはり最初に飛び出すことが勝つための必要条件。しかし、列強クルーによる6杯レースなので、無理をし過ぎない程度というのが3%ということだろう。
  2. 2Q:-1.0%。1Qでの飛び出しを2Qでは少し押さえたペースという感じ。ここで無理すると後半に祟るということか?
  3. 3Q:-2.1%。やはり、3Qが最もペースが落ちるが、落ちすぎないところが流石に世界トップクラス。
  4. 4Q:+0.1%。最後にもっとペースを上げて追い上げるクルーもいるが、優勝クルーは殆どが選考逃げ切り型なので、ラストQは余り余力が残っておらずペースアップはそれ程でもないということ。しかし、平均ペース+αになるところが、流石だ。

昭和57年東大クルーのペース配分:

おやじが4年時に全日本選手権4連覇を達成した時の東大クルー。軽量級、インカレ、全日本の3冠を全て取った。この中で最もタイムが良かった(6'00")のが、軽量級での決勝。この時のペース配分を紹介する。

  1. 1Q:4.7%。当時はタイムより勝ちを優先していたので、最初にライバルの頭を抑える戦法を得意としていた。練習の質及び量で実力に自信を持っていたので、確実に勝つための戦法を取った。この時も2位中大に対し、1艇身リードした。
  2. 2Q:-1.5%。1Qの飛び出しでかなり無理しているので、2Qではその反動でペースが落ちる傾向にあった。それでも1Qで確保したリードをキープした。
  3. 3Q:-2.3%。この辺りで序盤のオーバーペースの反動が来て、ペースが落ちかけ、2位中大が逆カンバスまで詰められたが、詰められては半枚上げを入れて何とかしのいだ。
  4. 4Q:-0.9%。1500m通過時に2位中大と逆カンバス差。相手も追いすがり厳しい状況だが相手の戦術に併せて何とか逆カンバスのリードを保つ。ラスト200mは勝ちが見えたので、スパートでミスする危険性があるMAXレートまで上げることを避け、適度なペースでゴールイン。

この当時は東大とライバル校の地力の差があったので、上記の通り、1Qで先行し逃げ切るパターンが殆どだった。

おやじ推奨ペース配分:

上記4ケース、何れのペース配分も甲乙つけ難い。要はその時の状況に応じて、優勝するために一番確実な戦術・ペース配分を選択すれば良い。しかしながら、何れのパターンでも1Qではそれなりに飛び出す必要があるということだ。以下、インカレや全日本など国内に於けるクラブクルーレースを想定した、おやじの推奨するペース配分を纏めたい。

  1. 1Q:+3.5%。やはり最初にライバルの頭を抑えることが必要である。最初の1分半(1Q)は無酸素運動が主体。ここで飛び出すには普段からトップスピードのトレーニングをしておく必要がある。尚、1Qの艇速を上げるにはスタート直後の力漕だけではなく、コンスタントへの移行を300mから400m掛けてテーパー状に徐々にセトルダウンすることが有効である。このテーパー状セトルダウン法は高度なテクニックであり、普段の練習で確りシミュレーションしていないとブッツケ本番では出来ない。
  2. 2Q:-1.0%。2Qから有酸素運動に入る。1Qに比べペースダウンするが、普段から高負荷の有酸素トレーニングを行うことで、高速巡航速度を維持する。
  3. 3Q:-2.0%。2Qに続き有酸素運動。やはり、3Qが最もペースが落ちる。しかし、この苦しい3Qが逆にライバルを置き去りにするチャンスでもある。ここでコンスタントの力を出し切るイメージでアタックしてゆく。(相手クルーの状況次第では、脚蹴り10本などのミドルスパートも有効となり得る。)3Qは練習の質・量が顕著に現れる重要な場面である。
  4. 4Q:-0.5%。3Q迄にコンスタントの力を使い果たしているので、4Qは残り少ない体力を更に搾り、最後の1滴まで搾り出す行程となる。コンスタントレートでは艇速を維持できないので徐々にレートを上げてスパートに向けた準備(ビルトアップ)をする。ラスト300m〜250mから無酸素運動のスパートに入る。スパートに入った後1750〜1850m辺りがスパート艇速のMAXとなる。最後100mは半分空回りに近い形であろうと躊躇せずにレートを上げ、MAX艇速維持に努める。少し艇速が落ちかけた形でゴールラインに入るのが理想。(艇速が上がりつつゴールインするのは力を出し切れていない証拠)そうした結果でこのペースが漸く出る位、3Qで頑張るということだ。尚、順風時には4Qのペースがもう少し上がるケースがある。