Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

オールのカバー角:計測・調整要領

oyajisculler2006-04-23

オールのカバー角の計測方法と設定の仕方について要領を纏めたい。カバー角とは、ドライブのミドル(オールとキールラインが直角となる時)において、ブレード面と垂線と為す角度のことを言う。(英語ではBlade Pitch) 所謂チョッパーオールでは3度から5度の範囲で設定されており、4度を採用するクラブが多い様だ。(因みに昔のマコンオールの時代は5度から6度に設定していた記憶がある。)カバー角は実際にOarlockにオールを挿してブレード面の角度を測ることも出来るが、3人以上いないと計れないし、面倒で時間がかかる。今はOarlockの固有角が角度調整用ブッシュで簡単に調整できる様になっているので、①ピン前傾角+②クラッチ固有角+③オールのブレードピッチの3つの角度を合計した角度をカバー角として管理する様になっている。カバー角の計測・調整方法は、FISA HPのFISA Basic Riggingサイトhttp://www.fisa.org/download/chapter1.pdfに記載されている。また、この和訳版が日ボ発行「Rowing For All」の4.6章「角度」に紹介されている。ここではこれと重複する点もあるが、おやじの持論も交えて角度計測要領を紹介したい。

先ず最初にボートを水平に置こう:

昔はボート専用角度計が市販されていなかったので、カバー角を計測するにはボートを水平に置く必要があった。後述するが、ボート専用角度計(Empacher製等、この製作誤差、計測精度が問題)等無くても、ボートが水平に置いてしまえば、ピン(クラッチ軸)を前後傾0度、外傾0度に設定することは容易だ。水準器1個あればピンを垂直(0度/0度)にするのは目視チェックで十分だ。人間は地球の重力(鉛直方向)を受けて立っているので、努力などせずとも、水平や垂直については、精度良く見極めることができる。おやじが思うに人間は肉眼で誤差0.2〜0.3度以内で鉛直を見極めることが出来る。この点に関しては人の目はボート専用角度計の計測精度より精度が上だと考える。

さて、前段は上記の通り。ボートを水平に置くにはガンネルを基準点とする。ボートはガンネルトップが水平になる様に設計されている。(一部1X艇についてはガンネルが水平でないタイプがある。この場合は船底のキールを基準にする以外にない)尚、エイト等のチームボートでシートデッキ面に角度計を乗せて基準点を取っている「愚か者」を良く目にする。シートデッキはガンネルと異なりかなり製作精度が悪く、また、長く使っている内に変形してガタガタになっている。従い、水平を取るときにはガンネル間に角材などを渡して、この上で基準点を取るようにすべきだ。
以下、エイトを例に取って艇を水平に置く要領を述べる。

  1. まず、地面が水平な場所を確保する。水平な地面が無い場合でも、少々手間がかかるが何とか設定可能。
  2. ボートを上記の場所に持ち込み、馬の上に載せる。エイトが自重で変形しないように出来るだけ重量がバランスよく分散する様に、2番と7番シートの下に馬を置く。(艇に優しい置き方)
  3. L型ハイト計などの長めの角材をガンネル間に渡し、その上に水準器を載せ、ボートを横方向(左右方向)に水平にする。(計測場所はボートの基準点として4番、5番辺りのボートの中央で行う)
  4. 次に水準器をガンネルの上に置き、ボートの長さ方向に水平になっているかどうかを確認する。もし水平でない場合は、下がっている方の馬の上に毛布を必要な厚さ分を載せて再度水平かどうかをチェックする。これを何度か繰り返して長さ方向にも水平となる様にする。尚、地面が傾斜している場所では高さの異なる馬を2個用意し、低いほうに高い馬、地面が高いほうに低い馬を使い、毛布の調整量が少なくて済む様に工夫すると良い。
  5. 再度横方向及び長さ方向の水平度をチェックする。ボートの前後左右から見通して水平に置かれていると認知できればそれで十分だ。

ピンは0度/0度が基本だが、初級者は1〜2度の外傾を付けた方が漕ぎやすい:

ピンは前傾0度、外傾0度が国際級エリートクラス漕手の基本である。一方、ブレードワークが未熟な大学生漕手の場合は、0度/0度ではキャッチが潜ってフィニッシュが浮き易い傾向にある。これを補うために1度〜2度の外傾をつけると水中がブレード一枚コントロールしやすくなる。ブレードワークが未熟な内は外傾を付けて、その後上達してきたら徐々に外傾を減らして、最終的には外傾0度でも上手くブレードコントロールできる様にすべきだと考える。しかしながら、外傾0度で確りブレードコントロールできるのは、大学生の場合は極トップクラスの一握りの選手だけだと考える。出来ないうちは無理せず、外傾に助けてもらえば良いと思う。尚、当然のことだが、ピンの前後傾は0度、また外傾は0度までは良いが、絶対に内傾しないようにすること。計画した通りのピン角度にならない場合は、リガーベンダー(曲げ棒)で曲げるか、ピンの基部に傾斜ワッシャーを噛ませてピンの傾斜を調整する。

クラッチを外してピンを剥き出しにしてチェック・調整:

ピンが鉛直になっているかどうかをチェックするのが目的なので、計測の際は全てのバックステー及びクラッチを外してピンを剥き出し状態にする。(ハイト調整ワッシャーは残っていても問題ない)チェック方法は以下の通り:

  1. ピンの前後傾:各シートのリガーサイドからキールに対して直角方向にピンを見る。目視で前後傾が無いかどうかをチェックする。目視では鉛直かどうか見極められないなら、水準器を縦にして見るか、市販のアングルメーターを使って垂直かどうかをチェックし、問題があれば前術の方法で調整する。0.5度未満の僅かな傾斜なら誤差と考えて良いと思う。(水準器とアングルメーターは下図参照)
  2. ピンの内外傾:船尾若しくは舳先から各サイド4本のピンを4本並べた形で見通す。異常な傾斜のピンがあれば瞬時に分かる。(4本とも異常ということは通常ない)異常と思しきピンの外傾をアングルメーターで計測し、0度から2度の範囲であればそのままでも良し、修正したければ、希望の値になる様に調整する。コーチは当該シートの漕手に現状の漕いだ感触を聞き、外傾を減らすべきかどうか判断する。0度から2度の範囲なら、漕手毎にバラつきがあっても殆ど支障なしと考える。まあ、一般的には1度くらい外傾があった方が学生漕手は漕ぎやすいのではなかろうか?

オールのブレードピッチ計測(専用架台を使うと簡単):

昔のマコンオールはブレードピッチ計測は簡単だった。角材1本と市販のアングルメーターがあれば、特段のノウハウ無しで容易に計測できた。Big Bladeの計測もブレードの角から1インチ手前のところを角材に載せれば良いだけで、少し勉強しておけば何とかなる。しかし、Smoothieブレードの場合は特殊な形状をしており、計測要領を正確に覚え、且つ、指定された通りに計測しなければならず面倒極まりない。(Smoothieの普及が今一なのはこれが影響していると勘繰っている)これを解消する為に最近開発されたのが、C2社のPitch Checkだ。全日本選手権など大きな大会で、Starline JapanのNさんがオールのメンテで使っているオールの架台だ。買うと高そうだし、日本では未だ売り出されていないとのことで、Pitch Checkの模造品を昨年10月に製作した。日曜大工の電動工具一式があれば材料費2000円程度でこのオール架台が製作できる。製作記録はブレードピッチ計測用架台を製作 - おやじスカラー戸田便りに記載の通り。このオール架台とブレード別のアタッチメントがあれば、マコン、Big Blade, Smoothie、Croker Slick等全てのオールのブレードピッチを簡単に計測することが出来る。おやじ自慢の小道具の一つ。

ブレードピッチは0度が基本。クラブ内で全てのオールが0度に管理・調整してあれば、各漕手は自分のオール1本を持って容易にシートチェンジやボートの乗換えが出来る。C2によれば、±1度以下であれば、スリーブを削って0度に修正可能とのこと。尚、0度のチェックであれば、アングルメーターは不要で水準器だけあれば良い。おやじも先日塗装剥がしの金属ヘラ(スクレーパー)でウェアプレート背面を削ってみたが、割と簡単に削ることが出来た。尚、オールのシャフトは日に当たると高温になって捩れて来るので、ブレードピッチの計測は日陰でやった方が良い。(出来れば艇庫内が良い)

カバー角の調整はOarlockの角度ブッシュで調整:

今はOarlock(クラッチ)といえばC2のOarlockという程、標準化している。このOarlockは優れもので角度調整用のブッシュを入れ替えれば1度から7度までOarlock固有角を調整することが出来る。Oarlockの詳細は下図に示す通り。ブッシュの色はピンの径を示している。欧州艇、中国艇及び国産艇は全てFISA標準の13mmΦの青いブッシュを使っている。

さて、ピンの前後傾は0度であることを前提とすると、カバー角はOarlock固有角(=ブッシュ角)とオールのブレードピッチの合計値となる。例えば、ブレードピッチが-2度のオールで、カバー角4度にする場合は、Oarlockに6度のブッシュを着ければ、6度-2度=4度となる。自分の漕ぐオールのブレードピッチが何度になっているか、月に1回程度はチェックするのが漕手としてあるべき姿と言えよう。(使って行く内に捩れたり、スリーブが磨り減ってブレードピッチが変化する)

ボートのリギング専用角度計について:

先ほども少し述べたが、艇やオールが水平に置かれていなくても角度を計測できる便利道具として、EmpacherやMartinoliの角度計が販売されている。1個4500円もする高価なモノだ。おやじもMartinoli製を1個持っており、ブレードピッチ計測に使っている。しかし、前述のオール架台があれば、水平調整用のボルトで容易に水平が出せるので、もはやこのリギング専用角度計は必要なく、普通にDIYショップで売っている市販アングルメーターさえあれば誰でも簡単にブレードピッチを計測できる。おやじの評価ではEmpacher製は製作誤差が大きく、またアルミの板金加工で出来ているので、扱いが乱暴だと容易に変形して要をなさなくなる。オール架台があり、水平な床等のインフラが整った艇庫の場合は、この計測精度に不安のある道具の常用は避けた方が良いと思う。(言い換えれば、インフラが整ったクラブにおいては、このボート専用角度計は、遠征時にだけ必要となる携帯道具と言えよう。)普段使っているEmpacher製の角度計があれば市販のアングルメーターと比較計測してその精度をチェックしてから使うべきだと思う。精度の悪いものは使わない方が良い。(酷いものは1度以上誤差があると思う)何れにせよ、正しく計測できるものについては、精密機械扱いして引き出しなどの安全な場所に移し変えることをお奨めする。くれぐれも他の工具と一緒に籠の中に投げ込むようなことをしないように。ぶつけたり落としたりしたら、一発でアルミ板がひん曲がってお釈迦になること間違いなし!!

以上