Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

エルゴの漕ぎ方・留意点

oyajisculler2006-02-01

エルゴマシンは実際の乗艇中のRowing(*)と同じ筋群及び同じ心肺機能を養成する最適なトレーニングマシンであると共に最適な体力計測器具である。しかしながら、実際のRowingと異なる点も多い。ここではエルゴとRowingとの違いを認識した上で正しいエルゴの漕ぎ方に関するおやじの考えを纏めたい。

  • (*):ボート競技にはスカル種目とスィープ種目があるが、ここでは大学ボートの華、エイトを前提に話を纏めたいので、スィープ、即ち、Rowing種目を前提に話を進める。以下、Rowerとは、スィープ種目の漕手を指す。Ergerは、エルゴのスコアは良いが、ボートを漕がせると全然ダメな選手のことを言う。

エルゴは乗艇とここが違う:

先ず、エルゴと実際の乗艇の違いについて考えたい。

  1. 回転運動と直線運動:Rowingはクラッチ軸を中心にした回転運動であるのに対して、エルゴは直線運動。
  2. フォワード中のハンドルを支える力の向きが上下逆向き:Rowingではオールのアウトボード方が重いので、フォワード中にブレードを空中に浮かせるためにハンドルを手で下に押さえる必要がある。これに対してエルゴでは、ハンドルと自分の腕の重さ分だけハンドルを上に吊り上げないと手元が下がってしまう。即ち、初級者がエルゴを漕ぐ場合は、意識していないとフォワード中にハンドルが下がりやすいということだ。
  3. フェザーワークの有無:Rowingでは、フェザーやスクウェアリング等のブレードワークが必要だが、エルゴではこれが無い。
  4. バランス:Rowingでは、バランスをキープするのにそれなりの技術を要するが、エルゴではバランスとは無関係。
  5. キャッチの正確性の要否:Rowingではキャッチの正確性の巧拙が艇速に大きく影響するが、エルゴではキャッチで水を掴んでいるか否かに関係なく、ハンドルを引けば自転車と同じ原理でラチェットが作動してキャッチがかかる。
  6. フォワードの感覚が異なる:Rowingではフォワード中に漕手の体の下をボートが走って行くので、フォワードが楽だが、エルゴでは機械が固定されているので、自分自身が100%動かねばならない。従って、実際の乗艇よりレートが3〜4枚低くなる。
  7. Forceカーブ:Rowing、特にエイトにおいては、8名全員の水中の押し方=Forceカーブが、綺麗にぴったり合わないとボートが効率よく進まない。一方、エルゴでは、Forceカーブがどんなに乱れようとも、また、1本1本バラバラでメチャクチャなカーブになろうとも、ハンドルとドラムを結ぶチェーンが力を伝える限り、漕手が発揮したパワーがドラムの回転エネルギーに変換されて、エルゴのタイムとして表示される。=漕ぎが下手でも力さえ出せばエルゴのスコアは出る。漕ぎ方によるForceカーブの違いについて以前作成した図があるので参考までに添付する。

以上が、エルゴとRowingの違いだ。

エルゴはこうやって漕ごう:

上記のエルゴとRowingの違いを知った上で、Rowerは如何にしてエルゴを漕ぐべきかについて述べたい。

  1. エルゴで出来るRowingに必要なことを徹底的にやる:簡単に言えば、上体の回転(捻り)運動と、フェザーワークは全く出来ないので、これは諦めざるを得ない。一方、上体の捻転とフェザーを除けば、Rowing運動と全く同じ動きであり、この点を徹底的にRowingをシミュレーションする。特にブレードを水中一枚キープすると言う意味でストローク中はハンドルを水平にドライブする。
  2. 綺麗な一山で滑らかなForceカーブで漕ぐ:Rowingでは、Forceカーブが滑らかでないと、ギザギザした尖ったピークの力はブレードがスリップするだけでロスになるだけ。従って、エルゴを漕ぐ際も、1本1本、毎回同じ滑らかなForceカーブを描く様に正確にスムーズに漕ぐ。
  3. フォワード中もハンドルを水平に動かす:Rowingではフォワード中もブレードの高さを一定にキープする為、ハンドルを水平に動かす必要がある。エルゴでは上記の通り、ハンドルを支える力を緩めると、ダランとハンドルが下がってしまうので、ハンドルが下がらない様にしなければならない。特にハンドルが膝前を過ぎ、ボディーセットした後は、キャッチを脚のドライブだけで掴むという意味でハンドルが下がらない様に水平に動かす必要がある。
  4. キャッチ前のブレード高さを水面ギリギリにコントロールすることが重要:上記のRowingとエルゴの違いの中で述べたが、実際のRowingとエルゴではハンドルを支える力が上下逆向き。Rowingのエントリーでは、キャッチ前のブレード高さが水面ギリギリにコントロール(キャッチ前のハンドルを高くキープ)されていれば、ハンドルを支える力を緩めれば自然とブレードはエントリーされる。言い方を換えれば、積極的にエントリー動作をする事などより、キャッチ前のブレード高さを水面ギリギリにコントロールする事の方が重要ということである。従い、エルゴでエントリー動作を無理にシミュレーションしてキャッチ前にハンドルを下げるのは、逆にエントリー前のブレードフライアップの癖をつけるための全く無駄(というより下手になる)な努力をしていることになる。
  5. 上体はSit Tallしよう:Rowingで正しく正確なブレードコントロールをする為には、上体を常に高く保つ必要がある。初級者は疲れてくると腰の下の方が丸まり、座高が下がってしまう傾向があるが、これでは正確なエントリーやフィニッシュハーフでブレードを一枚水中にキープすることが出来なくなる。勿論、座高を高く保つというのは、座高を高く保ちながらボディースリングも行うということである。
  6. フォワードの基本動作を守ろう:1月30日のログエイトのフォワード:おやじの考え - おやじスカラー戸田便りに書いたフォワードの要点であるハンズアウェー、ボディーセットやギャザーについてエルゴでも確りシミュレーションする。

典型的なErgerの漕ぎ方:

さて、正しいエルゴの漕ぎ方は上記の通りだが、悪い例としてErgerについて考察したい。Ergerとは、エルゴのスコアは良いが、ボートを漕がせると他の漕手の邪魔ばかりしてボートが走らない原因となる漕手のことを言う。Ergerの症状について参考までに書いてみる。

  1. Forceカーブが毎本違う形:正しい漕ぎ方になっていなかったり、気分的にムラがあるため、毎本Forceカーブの形が違ったり、毎本ペースが乱れたりする。これでは回りの漕手とは合わない。
  2. フォワードで休まず暴れまくる:正しいリズムや正しいフォワードについて理解しておらず、体力に任せてフォワードのリラックスやリズムを無視して、ゴソゴソ動いて暴れまくる。
  3. Rowingに必要なフォワード中のハンドルコントロールをしない:フォワードでリラックス感を優先するあまり、フォワードで必要なハンドル高さのコントロールを無視して、ハンドルをダランと下げて、キャッチ前に急にハンドルを上に跳ね上げる。これが癖になると乗艇中のキャッチ前ブレードフライアップに繋がる。

まあ、こんなもんか?他にももっと酷いErgerが存在するかも知れぬが、あまり想像力を発揮するのもバカバカしいので、この辺で止めておく。

エルゴ上手は、漕技も上手:

最初にエルゴとRowingは違うとか、Ergerはダメだと言ったりした。しかし、優秀なRowerがエルゴを漕ぐと、美しく全く無駄の無い漕ぎを見せてくれる。例えば先日のエルゴの戸田大会での長野のIさん(48歳で6'52")の漕ぎは素晴らしく美しかった。おやじ自身も45歳で6'55"だから、滑らかでロスの無い効率的な漕ぎをしていたと思う。それでは、Rowingの上級者がエルゴを漕ぐときに如何なるところが良いのか、要点について纏めたい。:

  1. 優秀なRowerは、フォワードもドライブ中もハンドルが水平に動き、上下動が殆ど無い
  2. 優秀なRowerは、キャッチ前のギャザーコントロールが確り出来ており、キャッチでの跳ね返りがスムーズ
  3. 優秀なRowerは、ドライブのレッグドライブ→ボディースリング→ハンドプルの連携がスムーズで、Forceカーブが美しい一山を描く。
  4. 優秀なRowerは、ペースコントロールが確りしており、500mペースの時々刻々の誤差が殆どない。(時々刻々のブレは1秒以内)
  5. 同じ基礎体力を有する漕手が2名いたと仮定して、片や優秀なRower、片やErgerだとすると、2000m漕の記録は、優秀なRowerの方が良い記録が出る。実際の乗艇では更に大きな差となる。

さあ、理屈が分かったら、正しくエルゴを漕ごう。先ずはロングから始める事を薦めたい。
以上