Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

論文の目的と解説:

緒言より、「漕艇は、船体・ストレッチャー・スライディングシート・リガー・オールといった、多くの用具を使用する。それぞれの用具の寸法・特性をどのようにすれば、漕手のパフォーマンスをよりよく引き出すことが出来るか、あるいは漕手がどのように漕げば漕手の出力が効率よく艇速に反映されるのかを推定することが、艇速・機械的推進の向上を図るために必要である。(中略)本研究では、VPPをもとに、漕艇の運動に関する様々なパラメータを変更した場合、平均船体速度や機械的推進がどの様に変化するかを調べる」とある。
論文本文の詳細は割愛し、ここでは、論文中、種々のパラメーターを変化させた場合の艇速や推進効率のシミュレーション結果について、おやじの勝手な考察も交えて、紹介したいと思う。(詳細内容は論文本文を読んで頂きたい)

VPPシミュレーションに用いたパラメーター:

VPPへの入力値や種々のパラメーターを変更することで、艇速や機械的効率の変化を調べ、どのパラメーターが大きく影響するのか、また、どのように変化させれば艇速の向上につながるのかを評価する。以下、本論分で変化させたパラメーターを記す。

  1. A) オールシャフトの剛性(硬さ)
  2. B) ブレードの面積
  3. C) オールの長さ比(全長固定で梃子比を変化)
  4. D) オールのアウトボード長(インボードを固定し、アウトボードを変化)
  5. E) オールの振り角(レンジ)
  6. F) ハンドルの引き方(ストロークポイントの変化)
  7. G) ハンドルを引く力
  8. H) ストローク中の漕手の重心移動(ボディースウィングのタイミング)
  9. I) フォワード中の漕手の重心加速度(フォワードの出し方)
  10. J) ブレードに加わる流体力係数の変化

本日は、上記パラメーターのA)〜E)について解説する。

A)オールシャフトの剛性:

オールシャフトの剛性(硬さ)をOriginalに対して±10%変化させたが、シミュレーションの結果、艇速や効率はOriginalと殆ど変化が無かったとのことである。
おやじの考えでは、ストローク中に滑らかな推進力を得る為には、ある程度シャフトの撓りが必要であるが、力の強い漕手がソフトなシャフトを使うと、キャッチハーフでのレンジが、シャフトの撓りで吸収されてしまい、キャッチハーフでのパワーがロスしてしまうこと、また、フィニッシュ時に撓りが戻るまでフィニッシュ姿勢で待たねばならないので、高いレートをキープすることが出来ない弊害が出ると考える。従って、レースで使用するオールは、違和感が無い限り、硬めのシャフトのオールを使う方が良いと考える。

B)ブレード面積

ブレードの面積をOriginalに対して±10%変化させて、シミュレーションした結果を下図に示す。(ブレード形状は何れも相似形で変化させた)今回のシミュレーション速度4グループの何れの速度粋においても、ブレードの面積を大きくした方が、艇速、効率共に改善する結果が得られた。4つの速度グループ中で、レースペースに最も近いGroup D(2'15"/500m)の結果を見ると、艇速で0.26%の改善となっている。これを500mペースに換算すると、0.35秒であり、有意の変化ではなさそうである。おやじの考えでは、ブレードを大きくするとフェザーターン時の取り回しがやや難しくなること、強い逆風時はキャッチ前に風に煽られやすいこと、エントリーやフィニッシュ時のハンドル上下動を大きくする必要があり、操作しづらくなる方向にあるので、取り回しに問題が無い範囲で、ブレードは大きめのものを選択するのが良いと考える。

C)オールの長さ比(梃子比):

オールの全長を固定したときに、インボードとアウトボードの長さの比pを下の式で定義する。
p=Lin / (Lin + Lout) 但し、Lin:インボード、Lout:アウトボード
pをOriginalに対して±3%変化させて、シミュレーションした結果を上図に示す。今回のシミュレーション速度4グループの何れの速度粋においても、pを小さくする、即ち、インボードを短くして梃子比を重くすると、艇速、効率共に改善する結果が得られた。Group Dの結果を見ると、艇速で3.08%の改善となっている。これを500mペースに換算すると、4.16秒であり、非常に大きな変化である。一方、スカルのインボードをOriginalで89cmと仮定すると、3%短くすると、86.3cmとなる。幾ら効率が良くなるからといって、これだけインボードを短くすると、水中が相当重くなって、レートがキープできなくなると、おやじは考える。レートをキープし、且つ、引ききれる限り、梃子比は重くした方が艇速も効率も良くなるということを念頭に置き、自らのクルーに最適な梃子比を模索する必要があると、おやじは考える。これは、自転車で自分に最適なギアを選択するのと同じことである。

D)アウトボード長さの変化とE)振り幅(レンジの変化):

前述のオールの梃子比pを変化させた場合では、オールの振り角も変化してしまうため、両者の影響が混在している。ここでは、インボードの長さを変えずに、アウトボードの長さのみを変更した場合と、オールの振り角(レンジ)のみを変更した場合の両者のシミュレーションを行い、個々の変更が及ぼす影響を調べた。
D)アウトボード長さ:インボード長を一定とし、アウトボード長をOriginalに対して±3%変化させた場合のシミュレーション結果を下図に示す。全ての艇速域でアウトボードを長くした方が、艇速も効率も改善している。Group Dでの艇速改善は0.46%、500mペース換算で0.62秒で、有意性としては微妙な改善である。一方、スカルのアウトボードをOriginalで200cmと仮定すると、3%長くすると、206cmとなる。要するにオールの全長を6cm長くするということであるが、Originalの全長289cmと仮定すると、295cmである。これだけ全長を長くすると、水中が相当重くなって、レートがキープできなくなるとおやじは考える。おやじの考えでは、前述のC)での考察同様に、レートをキープし、引き切れる限り、梃子比を重くすることが艇速改善に繋がると考える。
E)振り角(レンジ):オールの長さを固定し、キャッチからフィニッシュまでのオールの振り角(レンジ)をOriginalに対して±3%変化させた場合のシミュレーション結果を下図に示す。尚、ハンドルを引く力は、ストローク中の入力エネルギーが変化しない様に振り角に合わせて変化させている。この結果を見ると、レンジを長くした場合の変化量よりも、レンジを短くした場合の艇速及び効率悪化が著しいという結果が出ている。3%レンジを切った場合のGroup Dでの艇速悪化は-1.41%、500mペース換算で1.90秒で、有意な艇速悪化である。当たり前のことだが、「レンジを切るな」と良く言われるのは、このことを経験的に知っているからである。

本日の考察はこれまで。