Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

論文の要点と解説:

本論文は、漕艇運動について、漕手が出力する力、即ち、オールのハンドルを引く力と、スライディングシートと漕手の上体移動等による漕手の重心位置の変化を入力値とする時系列シミュレーションを確立することを目的としている。これは漕手の「筋力」及び体の動かし方である「漕法」の2つ、いわば漕手のパフォーマンスによって艇がどの様な運動を行うかを求める艇速予測プログラム(以下、VPPと称す)となるものである。
論文の結論は、こう書かれている。:
漕艇運動を、船体・漕手・オールの3つに分け、それぞれの運動方程式と全体の系のエネルギー方程式を解き漕艇運動を推定するシミュレーション法を開発した。シミュレーション中、オールのブレードに加わる流体力は過度影響による非定常特性を考慮に入れ推定を行った。「漕手のハンドルを引く力」及び「漕手の体重移動」を入力することで、即ち、漕手の身体の動きと発揮する力を入力することで、船体速度やオールの振れ角の推定をすることが可能となった。実艇実験の入力データから、実艇実験の船体速度が精度良く再現され、本シミュレーション法により漕艇運動を精度良く推定可能であることが確かめられ、VPPとして、漕艇運動の推定に有効であることが示された。
ということである。論文本文の詳細は割愛し、ここでは、この論文中でおやじが興味を持った、実艇試験結果の要点と、シミュレーション結果と実艇データの対比について、紹介したいと思う。(詳細内容は論文本文を読んで頂きたい)

実艇実験の要点:

実艇実験は、1997年12月に戸田ボートコースで行われた。以下の項目を計測した。

  1. クラッチ軸に加わる力
  2. オールのベンディング
  3. オールの振り角
  4. 漕手がストレッチャーを蹴る力
  5. 艇の加速度
  6. 艇の平均速度

実験は、設定した船体速度を被験者(現仙台大学監督のA氏)に極力維持して漕いで貰い、連続して何本かのストロークについて計測した。艇速は下図に示すとおり、A,B,C,Dの4つの設定速度で行った。500mのペースに換算した値を下に書いたが、所謂、2000mレースのレースペースに相当するデータはなく、Group Dでも2'15"ペースで、せいぜい、6km TTの平均艇速程度の速度での計測値である。これは、レートを高くしてガンガン漕ぐと、安定した漕ぎが出来ないということで、ライトパドル程度の艇速までしか漕がなかった様である。(レーススピードでの計測データがなく、おやじは一寸残念である。)このログを見ている読者には、Group Dの計測データを参考にしてもらいたい。下図のハンドルを引く力のカーブを見ると分かるが、ライトワーク程度の艇速では、ストロークポイントをフィニッシュ寄りとして漕いでいるが、艇速を上げるに従い、前半から確り漕いで、キャッチ周りから艇速を稼いでいることが分かる。パドルの艇速では、ストロークポイントをキャッチハーフ寄りに持ってこないと、艇速が上がらないことは明白である。(おやじの自論)

シミュレーション入力値と漕手の運動パラメーター:

このシミュレーションを行うためには、入力値としてハンドルを引く力と漕手の重心位置変化の2つが必要である。ハンドルを引く力については、実艇実験で計測した値を用いた。(上図)オールの振り角のレンジについては、各計測でバラつきが生じているため、シミュレーションの際は全てのグループについて共通の振り角レンジを設定した。漕手の重心位置変化については、漕手の体を脚・上体・腕の3箇所に分け、漕手の動きを下図にある様に定義した。即ち、

  1. 漕手が座っているシートの位置:Xcr
  2. 漕手の上体が屈んでいる角度:Φ
  3. 漕手の腕の長さ:Larm

このパラメーターを変化させることにより、キャッチから上体の開きを積極的に使っていった場合と脚だけ使った場合の艇速・効率の差や、フォワードの出し方(出し始めを速くした場合と、遅くした場合)による艇速の差をシミュレーションできる。(おって、シミュレーション結果を解説する)

VPPシミュレーション結果と実艇データの対比:

実艇実験に対して、このVPPによるシミュレーションを行い、両者を比較した。下図は、Group Dについて、キャッチ→フィニッシュ→フォワード→キャッチ前にいたる1ストローク中の船体速度(船体のみであり、漕手と艇を合成した全体系ではない)の変化をシミュレーションと実艇計測値を比較したものである。VPPのシミュレーションは実艇の状態をよく再現していることが分かる。(何れのGroupも良くあっている)
尚、キャッチ直後の艇速減衰は、ブレードが完全に水を捕らえ、オールがベンドして推進力を発生するまでの間(タイムラグ)、推進方向と逆の力であるストレッチャーを押す力の方が勝っているために生じるものであり、漕ぎ手の技量次第で大きくも小さくもなる。これがローイングのブレードワークという技量の差が大きく現れるところである。このマイナスは少なくすることは出来るがゼロにはならない。(しかし、ブレードエントリーやフィニッシュでの技量差はどの様にシミュレーションしているのであろうか?今度、木下先生に聞いてみようと思う。)

本日の解説はこれまで