Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

エルゴメーターの体重換算式

oyajisculler2004-11-05

おやじがT大のHCになったばかりのH3年10月に纏めたエルゴメーター換算値計算要領がある。ここではこの体重換算式について紹介する。参考ながら、おやじは某重工メーカーの造船技術者(英語ではNaval Architectという)である。ここで紹介する内容は造船工学の基礎知識を用いて考案したエルゴの体重換算要領であり、おやじのオリジナル版である。尚、T大では今でもこの体重換算式を使っている模様。この体重換算式と10月29日のログで紹介した距離と艇速の関係式を組み合わせると、エルゴメーターの計測結果を様々な切り口で自由自在に評価できる。

何故体重換算する必要があるのか?

エルゴメーターは漕力を計測する道具として有効である。しかし、体の大きい者の方が当然体力があり、エルゴの値が良い。これをクラブで設定した標準的な体格(体重)の漕力に換算してフェアに評価しようというものである。因みに、ボートの抵抗の9割程度はボートの水中抵抗である。水中抵抗はボートの水中濡れ面積(水に浸かっている面積:排水量の2/3乗に比例)に比例する。一方、漕力は漕手の除脂肪体重に比例する。簡単な例を挙げると、体重が1.5倍の漕手は漕力が1.5倍となるが、ボートの抵抗は1.5^(2/3)=1.3倍にしかなならい、即ち、体の大きい漕手の乗ったボートの方が単位重量あたりの濡れ面積∝抵抗が相対的に小さくなり、ボートが速く進むことになる。だからボートは大きい者が有利なのだ。しかし、体の小さい者が必ず弱いという訳ではない、練習をサボってプヨプヨ肥った大きな漕手より、毎日確りトレーニングしている漕手の方がボートを速く進める力がある。これを体重換算式を使って数値的に評価しようというものである。

アドミラルティー係数(Cad)

造船工学で用いる推進性能の簡略式としてアドミラルティー係数Cadというのがある。これは、船型が類似な船では同一V/√LではCad=排水量Δ^(2/3)*V^3/主機馬力HPが同一になるというものである。ボートの競技の場合、正にこの条件が当てはまる。(漕手の体重が多少変動しても水に浸かっている船体の形状=船型は殆ど変らない。また、艇速の方についても、速いエイトで2000mが5'50", 遅いエイトで6'20"であり、マクロでみれば同一船速のゾーンにある)この式を艇速Vを求める式に置き換えると次式となる。
V=(Cad*HP/Δ^(2/3))^(1/3)=C0*(HP/Δ^(2/3))^(1/3)←①式

エイトの排水量(漕手1人当たりの排水量):

排水量とは造船工学の用語である。アルキメデスの法則をご存知だろうか?水に浮いている物体は押しのけられた水の重量=排水量と同じ浮力を受けて浮かんでいる訳である。従って、排水量=浮力=浮体の重量ということになる。この意味でエイトの排水量は次の通りとなる。
排水量Δ=ボート本体重量(min.96kg)+COXの体重(min.55kg)+COX BOX(2kg)+オール(2.7kg*8本)+漕手体重(W*8人)+諸マージン2kg = (W+22.0kg)*8
即ち、エイトでの漕手1人当たりの重量(排水量)は、Δ'=W+22kgとなる。←②式

エイトに於ける漕力・体重と艇速の関係

アドミラルティー係数から求めた①式に、漕手一人当たりの排水量Δ’②式を入れると次の式となる。(実際にはエイト全体の排水量式を使うのが正しいが、誤差も殆ど無いので簡略して②式を使う)
V=C0*(HP/(W+22)^(2/3))^(1/3)←③式

流体抵抗型エルゴメーター(Concept2式エルゴ)での漕力換算値A2

おやじが学生の時に使っていたエルゴはフライホイールに巻いたベルトの摩擦で抵抗を負荷したタイプであった。この換算値をA1とする。(摩擦抵抗エルゴは絶滅したので、説明省略)ここでは流体抵抗型エルゴであるConcept2式エルゴの計測値を漕手一人当たりの排水量(体重)で無次元化した換算値A2式を紹介する。

  1. 流体抵抗型エルゴでの漕手漕力HPは次式で表される。HP=抵抗R*v=(C2*v^2)*V=C2*v^3←④式
  2. ④式のvは単位時間T(分)あたりのエルゴメーター漕破距離D(m)を示す。即ち、v=D/T(m/分)←⑤式
  3. ⑤式を④式に入れると、HP=C2*v^3=C2*(D/T)^3←⑥式
  4. 更に、⑥式を③式に入れると、V=C0*(C2*(D/T)^3/(W+22)^(2/3))^(1/3)=C3*(D/T)/(W+22)^(2/9)←⑦式
  5. ⑦式を簡略化したものを体重換算値A2とし、A2=(D/T)/(W+22)^(2/9)←⑧式となる。

体重換算値A2について:

上記の通り、換算値A2は、漕手のエルゴ漕破速度(m/分)をエイトに於ける漕手1人当たりの排水量で無次元化した数値である。以下、この換算値A2を実際のエルゴ記録に適用した例を示す。
<例1>

  1. 2000m漕を6'37"で漕ぐ75kgの漕手の換算値A2は次の通りとなる。 A2=(2000m/6.617分)/(75kg+22)^(2/9)=109.36
  2. この換算値のみで評価するのも良いし、クラブの評価基準を、例えば、体重70kgでの記録で評価したいのであれば、70kg換算タイム=2000m/(109.36*(70kg+22)^(2/9))=6.695分=6'42"となる。

<例2>

  1. 20分漕で5707mを漕ぐ75kgの漕手の換算値A2は次の通りとなる。A2=(5707m/20分)/(75kg+22)^(2/9)=103.25
  2. この換算値のみで評価するのも良いし、クラブの評価基準を、例えば、体重70kgでの記録で評価したいのであれば、70kg換算タイム=20分*103.25*(70kg+22)^(2/9)=5640mとなる。

<例3>

  1. 10月29日ログに記載した距離と艇速の関係を用いて、20分漕5707Mの選手の2000M漕換算値を推定する。上記例2のデータより:A2(2000m)=103.25*(2000/5707)^(-1/18)=109.44となる。
  2. 2000m,体重70kgのタイムに換算すると:2000m/(109.44*(70+22)^(2/9))=6.690分=6'41"となる。


以上