Oyajisculler's blog

(おやじスカラー戸田便り)

リギングその4(ボートについて)

oyajisculler2004-10-07

ここではボートに関して、①構造材料、②FRP構造のいろいろ、③FRP艇取扱い上の留意点、④FRP艇の簡単な修理について述べたい。ここで述べることはYSDI鈴木氏の主催でEmpacher社製造部門担当経営者Helmut氏を講師としたボート修理講習会(1993年11月)で習ったことをベースに纏める。

①構造材料(シェル材):

おやじが現役選手であった1987年頃までは、国内のレース艇といえば木造艇であった。今では木造艇を作っている造船所は殆ど無くなり、FRP艇が主流となっている。以下、ボートのシェル材の材質の種類と特徴について述べる。

  1. 木材(合板):レッドシシダー(北米杉=赤い木材)を主材として木目を船体の長手方向に置き、水圧に対して変形を防止するため、内側にスプルス(米松=白い木材)を木目を横方向張り合わせた2枚合わせの合板が多い。合計の厚さが2mm程度と薄く、水圧がかかると変形してしまうので、更に内側に補強用のフレーム(肋骨材)を30cm程度の間隔で配置したものが主流であった。木は生きている時に水を通すための細い水管が沢山あるので、比重が小さく比較的軽い重量で艇を建造できる。しかし長年使用すると、ヘタリが出て前述のフレームが浮き出る痩せ馬変形を生じて、水抵抗が増大してしまう。聞くところによれば、スイスのスタンフリー社は今でも木造艇を創っているとのことであるが、国内では最近殆ど見かけなくなってしまった。今や木造艇は骨董品としての価値があるので大事に保管すべきである。尚、英カールダグラス社製の一見木造に見える1X艇(T社のIさんが使用中)を戸田で見かけるが、この艇の構造をよく見るとPVCフォームサンドイッチFRPシェルにお化粧用の木材スライス(マホガニー)を貼り付けたものであり、純粋な木造艇ではなくハイブリッド構造である。
  2. ラミネートFRP:カーボン艇と呼ばれていた1980年代中盤以降のFRP艇がこのラミネートFRPである。ラミネートとは、カーボンクロスやガラスクロスに樹脂を塗布した繊維クロスを積層したものであり、面方向の加重に対しては強いが、厚みが薄いので水圧に代表される面外からの加重に対して弱い。要するにフニャフニャ変形しやすい。比重は木材より密度が高く、重い。艇全体の構造としても木造艇の外板を木材からラミネートFRPに置き換えただけのものが多く、高価なカーボンクロスを使用しても木造艇を越える良品のレース艇を作ることは難しく、次に述べるハニカムFRP構造の普及により、レース艇に採用されることは無くなった。
  3. ハニカムサンドイッチFRP:小学生の図画工作で使用する厚紙がある。厚紙は紙の繊維を厚く積層(ラミネート構造)したものであり、面方向の過重には強いが面外からの過重に弱い。これに対して段ボール箱に使用されている紙は中に波型の紙がサンドイッチされていて厚みがあり、面外からの過重に対して強く、且つ軽い。ハニカムFRPはこのサンドイッチ構造をFRPに採用したものであり、軽くて強い。サンドイッチ構造の間に挟まれる材料のことをDistance Holderと呼び、その名の通り役割は厚みを保持し、且つ、軽いことが要求される。ハニカム材は、蜂の巣を薄くスライス(3〜5㎜厚)した様な非常に軽い材料であり、サンドイッチFRPの最適なDistance Holderである。ハニカムFRPは厚みがあるので、水圧がかかってもシェルが変形(痩せ馬)することが無いので、木造艇で必要であったフレームが不要になった。

②FRP艇構造のいろいろ:

  1. FRP艇の構造は、波よけのガンネルまで一体化したシェルと、漕手が乗るデッキとこれを支えるブラケット材というシンプルで強い構造になっている。船首・船尾のカンバス部分は、昔はシートを張っていたが、今はシェル材と同じハニカムFRPとなって艇の強度に寄与している。
  2. FRP繊維・クロス材としては、次の3種類がある。ケブラー繊維:引っ張り強度、衝撃強度(防弾チョッキに使用)に強く、シェル材に使われている黄色の繊維。カーボン繊維:引っ張り強度が非常に強く、キール部やガンネル部等、艇の局部補強に使われている黒い繊維。レース専用艇としてシェル材にもカーボン繊維を採用した高価なフルカーボン艇もある。ガラス繊維:強度は前述の繊維より劣るが、安価なので練習艇に今でも採用されている他、主に修理用に使用されている。
  3. FRP樹脂(プラスチック):前項の繊維そのものは柔らかい素材であり、これを樹脂で固めたものがFRPである。FRP樹脂には主に2種類ある。エポキシ樹脂:強度が強く硬化時に収縮しないので、FRP艇の新造時に採用されている。値段が高い。ポリエステル樹脂:値段が安く、DIYセンターで容易に購入できるので修理用に使われている。硬化剤を適量以上に入れると高熱を発するので要注意。
  4. Distance Holderとしてはハニカム材の他に、比較的安価なPVCフォームがある。フォームサンドイッチFRPは、ハニカムFRPより少し重くなるが、人が踏んだり、ストレッチャーからの過重等、局部的な過重や衝撃に対して強いので、FRP艇のデッキに使用されることが多い。フォームサンドイッチFRPはシェル材にも使用され、レース艇より少し重め(FISA minimum重量+5%程度)となるが、耐久性が強く、扱いやすいのでクラブユースの艇に採用されている。(例えば、フィリッピのItaria-2やJ2艇(中国製)のクラブA仕様)
  5. ラミネートFRPは、今は練習専用艇のシェル材として使われている。これは耐久性を増すために安価なガラス繊維クロスを厚めに積層したものであり、非常に重い。(1Xで20kg以上あり、素人が1人で持つのは厳しい)但し、非常に頑強であり、少々手荒く扱っても壊れないので素人向きである。

③FRP艇取扱い上の留意点:

FRP艇は木造艇に比べで経年変化が少なく、強く、メンテに手間が掛からない。以下の点に留意すれば更に長持ちする。

  1. FRP樹脂は紫外線に弱い:Empacherやフィリッピ等レース艇を長年使用していると、内側の塗装していないデッキやシェルなどの樹脂表面が紫外線で肌荒れし、酷いときには表面がひび割れや剥離をすることがある。こうなると剛性が無くなり、フニャフニャになる。欧州では太陽光線があまり強くないので、内側まで紫外線対策をしていない様だが、日本では太陽光線が強いので、出来れば内側も塗装した方が良い。Vespoli艇は内側も塗装してあるので長持ちする様だ。整備途中で艇庫の前にボートを上向きにして何時間も直射日光に曝したまま置いてあるのを偶に見るが、あれは最悪である。オールについても同じことが言える。普段は艇庫に保管している艇・オールを遠征先で屋外に放置すると、僅か1週間程度でも艇が傷んでいるのが分かる。
  2. FRP艇の正しい持ち方:小艇は船体の幅が狭いので、ガンネルを持って上げ下ろしをすれば良いが、エイトになると船体中央の幅が広いので、上げ下ろし時に体の小さい漕手は手が反対側のガンネルまで届き難く、艇を下ろすときに船台の縁に船底やフィンを当てて傷をつけ易い。Vespoli社のOwner’s Manualによると、一つの手は手前のガンネル、もう一方の手はストレッチャーの横棒を持って上げ下ろしせよと解説されている。先日からこの方法で上げ下ろしをしているが、艇の中心を持ってハンドリングできるので無理なく安全に上げ下ろし出来ることが分かった。
  3. 1X艇の担ぎ方:おやじが学生の頃、1X艇の持ち方と言えば船底を肩の上に担ぐ方法が主流であった。しかしこの担ぎ方だと船底が自重に耐えられず、担いでいる間にシェルが変形したり、酷いときは損傷してしまう。FRP艇についてもこの状況は同じであり、船底を下にして担いではならない。①一番良いのは上げ下ろし時に船底に一切負担が掛からぬように艇を頭の上に載せる方法である。(シートを頭の上に載せて、両手でガンネルまたはリガーを持ち、バランスを保つ)これは前方及び左右の視界が確保できるので移動中の安全面でも有効である。但し、風が強いときにはふら付きやすいという点、非力な漕手では頭上に差し上げるのが難しいのという問題がある。②一度頭上に差し上げた後、頭に載せず、片方のガンネルを肩の上に担ぐ方法。この方法は左右何れかの視界が遮られるのと、1X艇の尖がったガンネルが肩に食い込み痛いという欠点がある。③船底を下にしてボートを腰の高さまで持ち上げ、次にこれを太ももの上に一度載せて片手を船底に回しこみ肩まで持ち上げ一度肩の上に船底を載せる。そして担いだ肩と反対側の手でリガーを腰まで下げ、艇を横にしてガンネルを肩の上に載せて運ぶ。この方法は非力な漕手でもかの可能で、且つ、艇の強度上も許容しうる担ぎ方である。おやじは①の担ぎ方を推奨するが、初心者には難しいので、ボートの扱いに慣れるまでは③の担ぎ方をするのが妥当と考える。
  4. 水抜き:雨天での練習などでは雨水が艇内に溜まる。艇を反すことにより大半の水は流れ落ちるがカンバス内の水は抜けない。FRP艇は湿気で腐ることはないが、長い間にハニカム空間に水が入り込んで抜けなくなってしまう可能性がある。従って、使用後はカンバスの水抜き蓋を外して水・湿気を逃がすべきである。少なくとも週に1回は明けるべきである。

(正しい担ぎ方②の例)

④FRP艇の簡単な修理:

おやじのログでも2X艇のデッキ修理の状況を報告しているが、FRPの修理は道具と材料、及び手順を知っていればそれ程難しいものではない。粘度細工、彫刻と似たようなものである。修理手法は損傷状況によって異なるので、ここでは必要な材料を述べるに留める。機会があれば修理手法について別途ログに纏めようと思う。以下、FRP修理の材料と道具:

  1. 材料:ポリエステルレジンと硬化剤、タルク(パテ用の粉)、グラスファイバークロス(薄手のもの)、塗料スプレー(シェルと同じ色)
  2. 消耗品:サンドペーパー(#60、#120、#320)、紙コップ、マスキングテープ、ぼろ布、新聞紙、アセトン(洗浄用)、ゴム手袋、コンパウンド(艶出し用)
  3. 道具:はさみ、パテ塗り用ヘラ、樹脂塗布用刷毛、カッター、ノミ、

以上